学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2018.05.29

保護者

学園転入生のお話

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.35  2018.5.29

シュタイナー学園に通う子どもたち。1年生からずっと学園に通っている子もいれば、途中転入してきた子もいます。ちがう環境から入って馴染めるものかな?転入を考えている保護者の方からはそんな不安を聞くこともありますが、 それぞれにさまざまな生活の変化や成長をしながら学園生活をおくっています。そんな様子をニュースレターで今後少しずつご紹介できたらと思います。 今回はこの春、学園2年に転入してきた生徒のお母さん、Sさんのお話をお届けします。

本当にこんな学校があるのかな?

幼稚園に楽しく通っていた娘。とくになんの心配もせず、地元だった都内の小学校に入学しました。入学式も笑顔で迎えたのですが、いざ学校生活が始まると行くのを激しく抵抗するようになったのです。担任はベテランの先生で、規律やルールの大切さをしっかりと指導してくれたのですが、自分が叱られるわけではなくても、そんな空気を苦しく感じてしまったのかもしれません。娘は行けない理由を言葉にできなかったのですが、わたしが付き添えばなんとか教室に入れたので、ずっとお弁当持参で一緒に登校し教室の後ろで椅子に座って授業を見守る生活をしていました。当時は悩み、いろいろな先生に相談をしたり面談をうけたりもしましたが、そうやって今の公立小学校の授業を間近に見ることで知れたこと、感じられたこともありました。

授業ではすべてに「今日の目当て」というのがあり、たとえそれが図工でもなんでもその「目当て」に沿ったことを行い、提出する。課題となる「目当て」に沿えないとやり直し。でも「目当て」に沿えない部分にも子どもの発見や学びがあるんじゃないかと疑問を持ちました。

学校生活に苦しんでいた娘でしたが、習っていた舞踏が大好きでした。舞踏の先生は一人一人の個性を尊重し、向き合ってくださる方だったので、学校のことも相談していました。「自分の『嫌』という気持ちをちゃんと表現できることは素晴らしいこと」といってくれ、シュタイナー学校とか向いているんじゃない?と進めてくれたのもその先生でした。シュタイナー教育という名前は知っていましたが詳しく触れたことはなかったので、その先生の言葉をきかっけにいろいろな本を読んでみることにしました。学校の付き添い中に、教室の後ろでカバーをかけた本をもくもくと読んでいると、本に書かれている教育とその時娘のクラスで行なわれている教育がかけ離れすぎていて、本に書かれた世界は理想的だけれど、でも本当にこんな学校があるのかな?と感じるほどでした。

時間とともに、なんとか娘も学校の環境に順応していく様子もあったので、きっといずれは一人でも通えるようになるだろうとも思いました。でも、それって本当にいいことなのだろうか?と迷いを持っていた時に、学園のホームページを見つけ、そしてそこに転入生の二次募集のお知らせもありました。

泥まみれで遊んでいた生き生きとした表情が、転入を決意するきっかけに

娘には「このまま今の小学校にいってもいいのだけど、そうじゃない学校もあるんだよ」と話し、夫も学校教育に対する疑問や思いは一緒だったので、家族で転入募集の面接をうけるための勉強会に参加してみることにしました。 勉強会で学園の古賀先生の音楽の授業を受け、夫婦で感動し、シュタイナー教育にますます共感しました。でもそれよりもなによりも勉強会の間、別の場所で預かってもらっていた娘を迎えにいった時、「わたしはこの学校に行く!」とはっきりと言ったこと、泥まみれで遊んでいた生き生きとした表情が、転入を決意するきっかけになりました。

当初はすでに年明けすぎの時期で、春までに引越しとなると時間があまりにもないので、転入を検討するにしてももう1年後かなと思っていました。でも大人にとっての1年と子供にとっての1年は重みが違います。娘の様子を見たら、無理をしてでもすぐに転入させてあげたいと思いました。

居場所がここだった

面談をうけ、無事に転入が決まり、バタバタと家を探して引越しとなりました。シュタイナー学園の担任の先生にも事前に公立小学校で母子登校していたことを伝え、もしかしたらこちらでも最初は母子登校になるかもしれないと思っていたのに、初日から下駄箱でこちらを振り返ることもなく、娘は登校していきました。

以前は日曜日の夜中に飛び起きて泣くことがありました。翌日から学校だと思うと不安でそうなってしまっていたのです。でも今では学校がお休みになってしまうから金曜日の夜がきらい、とまで言うようになり、本当に驚いています。 娘がシュタイナー学園へ転入する、最初のきっかけをくれた舞踏の先生も、娘の今をとても喜んでくれています。引越しで、舞踏には通えなくなってしまったのですが今でも連絡をとりあっています。 学校に馴染めない娘を見ていた時、世界は広いのだからきっと娘にとって居場所だと感じられる場所があるはずだと思っていました。もしもシュタイナー学園がだめだったとしても、その居場所を見つけてあげたいな、とも思っていました。でも今毎日野山を駆け回り、学校の様子を楽しそうに話し、のびのびと過ごす娘を見ていると、その居場所がここだったんだな、と思えるのです。

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感じた違和感に蓋をせず、声をあげることができたお子さん。そしてお子さんのそんな声に向き合い、新しい決断をしたSさん。そうして出会った「居場所」で笑うSさん親子の姿が、眩しく、嬉しく感じるお話でした。Sさん、どうもありがとうございました。

中村暁野(ライター)