2020.05.13
シュタイナー学園のオーケストラ
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.80 2020.05.13
シュタイナー学園の魅力の一つ、それは7年生(中学1年生)から12年生(高校3年生)で構成されるオーケストラがあること。オープンデイや学園祭などの行事、そして毎年春に橋本の「杜のホール はしもと」で行われるオーケストラ・コンサートで、演奏を聴けることを生徒も保護者も、とても楽しみにしています。まだ子どもが学園に入る前に、初めて聴いた時には思わず涙がこぼれました。学園保護者としての立場を差し引いても、とても心に響く演奏は、一体どのような時間の積み重ねで生まれていくものなのでしょうか。オーケストラの指導をしてくださっている間瀬先生にお話を伺いました。
合同練習は高等部のある吉野校舎で火曜日午後、1時間半だけ。もともと楽器を習っている子ども達の参加が多いとはいえ、その短い時間で曲を仕上げていくのは至難の技でもある、と間瀬先生はおっしゃいます。
チェロ奏者であり、プロのオーケストラで活躍されていた音楽家でもある間瀬先生。そんな間瀬先生のもとにシュタイナー学園で音楽を教えている古賀先生から「学園にオーケストラをつくりたい。指導をしてくれないか」と連絡が来たのは2007年のことだったそうです。
もともとシュタイナー教育と所縁があったわけではありませんでしたが、シュタイナー教育が大事にしていることが、音楽の持つ本質と通じていると感じ引き受けてくださいました。以来オーケストラの立ち上げから現在まで、長年指導を続けてきてくださっています。
「うちのオケは決して『上手』じゃないんです。でも特別なオケです」と間瀬先生はおっしゃいます。子どもたち自ら希望して集まり結成されるオーケストラ。大切にしているのは、「響き」だといいます。楽器も子どもも、一つひとつ、一人ひとりの「個」がある中で、個と個が集って一つの音を響かせる。一つの音が響くと、こんなに気持ちがいいんだ、そう感じられる瞬間。そんな感覚や瞬間を大事にする。その感覚を大事にしながら、一曲をみんなでつくりあげる、と間瀬先生。他校のブラスバンドやオーケストラと比べて驚くくらい少ない練習時間ですが
「この学園の子どもたちの響きに対する感覚は特別です。楽譜をなぞり、弾いたり吹いたりするのではなく『響き』を出そうとする。目に見えない、言葉にできない音を聴こうとする。きっとすべての音楽家の中に必要な感覚だと思うそんな感覚が、子どもたちの中に宿っているんです。だからこそ、そんな子どもたちに寄り添うような、質の高い響きの豊かな曲を選び、このメロディはあの子に弾いてもらおう、吹いてもらおう、と毎年、オケのメンバーの一人ひとりを思い浮かべながら譜面をかいています。その年の生徒の『個』に合わせて楽曲も、パートも決めていくのです。僕の初めてのピアノの先生がポーンと弾いた一音。優しく深いその音が、ずっと心に残っている。音楽のすばらしさがあの一音にある。シュタイナー教育には、その音に繋がる本質的なものを感じています。そんな教育を受けてきた子どもたちにしか出せない『響き』がこの学校のオケには、確かにあると思います」
明日本番なのに全然仕上がっていない…という状況から、本番では素晴らしい演奏をする、という奇跡のようなことを何度も起こしているオーケストラ。それは重なり合うお互いの音に心を向けようとした時に、生まれている響きなのかもしれません。そんな経験を通して養われる、音楽を楽しむ力は、ささやかに、でも確かに、学校生活が終わった後も生涯にわたって一人ひとりを支えとなるのではないかと思います。
「いつか卒業生や保護者が集った、シュタイナーオーケストラを作れたらいいな、と思うんです」と間瀬先生。
毎年、その年に集まった一人ひとりの子どもたちによる、その年だけのオーケストラの響き。現在休校中のため、まだ合同練習は始まっていませんが、彼らならきっと大丈夫でしょう。今年はどんな音が響くのでしょうか。
保護者/ライター 中村暁野