2020.11.11
シュタイナー学園の学童保育
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.93 2020.11.11
学びを終え元気よく校舎を出てくる子どもたちに、「おかえり」と声をかけ、一人ひとりとごあいさつをして、キンダーハウス(学童保育)の一日は始まります。
銀杏の木の下に敷かれたシートの上に、かばんを置き、すぐに外遊びを始める子どもたち。
外遊びの後は、室内に入りおやつを食べます。その後は、部屋の掃除。雑巾がけをしています。掃除の後は、おわりの会。ろうそくを灯し、お話を聴きます。その後は、順次お迎えを待ちますが、再び外に出て遊ぶ子、室内で手の仕事やごっこ遊びをする子、宿題をする子など様々です。
室内では、指あみでひもを作ったり、クロスした木の枝に、毛糸やフェルトをまいて作る「ゴッドアイ」作りやフェルト通し、お人形や布を使ったごっこ遊び、折り紙やお絵かきなどをして過ごしています。こうして一日を終えた子どもたちは、家へと帰ってゆきます。
校庭には、大きな銀杏の木があり、そこには二本のロープが垂れ下がっています。そのロープを伝って木の上に登ることができます。スルスルッと登れる子、なかなか登れない子、それぞれ。登れる子は、「ここまで来たら、ここを掴んで、ここに足をかけて」と木の上からの景色を一緒に楽しみたくて、何度も教えてくれます。やっとの思いで登れた木の上は、まるでツリーハウスのよう。子どもたちがくつろげる空間がいくつかあり、「ここに座ったら、ここに帽子をかけるの。ここにも、座れるよ」子どもたちの頭の中は空想の世界でいっぱいになります。
子どもたちがより良い状態で学びに向かえるよう、放課後は家庭で保護者の方とゆっくり過ごしてほしいというシュタイナー学園の基本方針は変わりませんが、一方で昨今の社会情勢や各家庭の事情を鑑みざるを得ない状況も増えてきました。
キンダーハウスは、仕事や様々な事情で保護者の方が保育できない時間の間、先生方や保護者の方と連携し、放課後に子どもたちが安心して過ごせる場所を提供しています。
その中で、私たちが大切にしていることのひとつに“リズム”があります。草花が芽吹き、花を咲かせ、また翌年芽を出すように、“リズム”は私たちに安心感を与えてくれます。学びを終えた子どもたちは、校庭で思う存分遊び、おやつを食べ、掃除をし、ろうそくを灯してお話を聴き、お迎えを待ちます。キンダーハウスの生活は毎日この“リズム”の繰り返しです。
大切にしていることのもうひとつに、火を使ったおやつ作りがあります。シュタイナー学園には、今の10年生が4年生の時に作った、ピザ窯があります。そのピザ窯と、屋外で使える薪ストーブでおやつを作ります。ピザや焼きリンゴ、すいとんやシチューなど、子どもたちの体と心を満たすおやつを作っています。
羽釜で炊くごはんは、炊いているときからとてもいい匂いがします。途中、蓋を開けたくなりますが、おいしく炊くためには開けてはいけません。「始めちょろちょろ、中ぱっぱ。赤子泣いても蓋取るな」子どもたちは、蓋を開けずとも中の様子を知ることができます。蓋に木を当て、そこに耳を当てるのです。そうすると、中のお米がぐつぐつとダンスしている様子を感じることができます。そうしたら、火加減を変える合図。直火で炊いたご飯は、ほっぺたが落ちそうになります。
火を起こすための燃料は、自然の中からいただきます。近くの神社に遊びに行ったときには、神様にご挨拶をして、帰りに杉の葉っぱなどをいただいてきます。自然豊かな藤野には、たくさんの種類の木が生えています。どんな木が燃えやすくて、どんな木が燃料として長持ちするのか、また、燃やすとどんな音がして、どんな匂いがするのか。
ある時、ある子がこう言いました。「先生見てて。この枯れ葉があるでしょ。入れるよ」枯れ葉を火の中に入れると、始め何も変わらない枯れ葉が、一気に炎を上げてパッと赤く燃え上がります。そうかと思うと、一瞬にして灰になるのです。その子は、何度もそれを繰り返し、その様子を眺めていました。そして、その感動したことを、誰かと共有したかったのでしょう。たったそれだけの事といえば、それだけのことですが、その感動体験が子どもたちの心の中にやがて大きく花開く小さな種をまいてくれている気がしています。キンダーハウスでは、そのような出来事が毎日繰り広げられています。
私の好きな本のひとつにレイチェル・カーソン著『センス・オブ・ワンダー』があります。
この文章を書いている今でも、子どもたちが自然と出会い感じた喜びや感動を思い出すだけで、涙が出てきます。
子どもたちは、大きな喜びを表現しませんが、もくもくと取り組む姿や表情、声のトーンから、大人の私たちが忘れてしまっている世界とつながり、その時を楽しんでいるように感じます。藤野の豊かな環境に恵まれ、四季折々の自然の移り変わりを体験し、様々な感覚を養っていってほしいと思っています。
ライター/学童支援員・保護者 山野辺智子