2021.03.03
心と身体を温める“スープの日”
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.101 2021.3.3
1月末、寒さが最も厳しくなる「大寒」のころ、藤野のシュタイナー学園の子どもたちは氷点下の気温の中を登校します。校舎もひんやりとしたまま。そんな冬の日々で、子どもも教職員も楽しみにしているのが「スープの日」です。大寒からの週に1度、4週間にわたって保護者有志が集まり、昼食に温かいスープを作ります。普段はお弁当を持参する子どもたちも、この時ばかりはおにぎりなど簡単な食事とお椀を持ってきて、湯気の上がるスープを心待ちにしています。
この「スープの日」は、シュタイナー学園が藤野に移転する前の三鷹時代から続く活動のひとつです。学園では、子どもも教職員もお弁当をいただきます。各家庭の味はおいしいものですが、やはり冷え切ったご飯ばかりでなく、温かいものを食べさせてあげたいという親たちの思いから、この季節のスープ作りが始まりました。2005年に学園が藤野へ移転してからしばらくは、用務の職員が中心となって続けていましたが、やはりこれは保護者の気持ちから始まったことだからと、保護者有志の「スープ係」が生まれました。長年スープ係のチーフとしてお手伝いの方への声かけや、食材の手配、調理を担っている、保護者の楽令子(らく・れいこ)さんにお話を伺いました。
「毎回7、8人の保護者が集まりますが、初中等部の校舎には大きな調理場はありません。消毒など衛生面に気を使いながら、寒い調理スペースで工夫して作ります。スープ作りに参加する保護者は、時にはスキーウェアの上にエプロンをつけ、かじかむ手で具材を刻んでいます」
ミネストローネやけんちん汁など、さまざまなメニューを用意した時期もありましたが、現在はシンプルな野菜スープを作っています。
「アレルギーを持つ子どもに別メニューを作っていたこともありました。でも、同じものをみんなで食べたい、という思いが作る側にも、子どもにもあるんですね。アンケートをとり試行錯誤して、玉ねぎ、大根、人参、さつまいも、カボチャ、白菜、そして菜種油に塩、という、全員が食べられる内容になりました」
寒い中でスープ作りを続ける保護者の心には、温かいものを食べることとともに、「みんなで同じものをいただく」ことを大切にしたい、という願いがあります。いつもは別々のものを食べる子どもたちですが、スープの日は、おいしい、あったかい、という幸せな気持ちを分かち合える貴重な時間です。家族で食卓を囲むようにみんなで同じものを食べることは、共同体のいちばん素朴な姿なのかもしれません。
「野菜は有機栽培で農薬を使わずに育てられたものを調達します。全校生徒と教職員がいただくスープの量はおよそ300人分。欲しい食材が不作で少ない年もありましたが、学園に理解あるお店の方が一生懸命集めてくれました」
子どもたちの登校後から調理を始め、ちょうどお昼に大量のスープが出来上がります。車で15分程の距離にある高等部にも配達します。各教室にお鍋が届けられ、学園のみんなをおなかの中から温めてくれます。
「さつまいもとカボチャが入っていると子どもたちが喜ぶんです。途中から入れる量を増やしました」
子どもたちの声を聞きながら工夫を重ねてきたスープは、2杯、3杯と食べる子も多く、おかわりをもらいにくるクラスもあるそうです。「ごちそうさまでした!」の声とともに、空っぽのお鍋を返しに来る子どもたちの笑顔を見るのが、スープ作りに参加した保護者には何より嬉しい瞬間。冷たい水で丁寧に洗って返してくれる学年もあります。
「仕事を終えて、みんなでストーブを囲みながら食べるスープは本当においしいんです」
2月に入り立春を迎えると、その年のスープの日も終わります。
「最初のスープの日は極寒ですが、最後のスープ作りを終える頃には、ホッとした気持ちとともに春風を感じます」
今年は新型コロナ感染症への配慮から、残念ながらスープの日を実施することができませんでした。子どもも教職員も、次の冬までスープの温かさを心にしまって、楽しみに待っていることでしょう。
写真:子どもたちからのお礼状。美味しくいただいた様子が伺えます。