2021.05.26
移住して知る『藤野』の魅力〜お父さんの声〜
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.107 2021.5.26
今年で藤野(旧藤野町)に移住して4年目になります。子どもは藤野の自然保育の保育園から入学し、現在2年生。私は、本やウェブの編集、執筆、撮影を生業にしており、妻は舞踊を仕事にしています。お互いに田舎育ちでアートを愛するという意味では強く共感できる関係にあります。それ故に、藤野という町が自然と芸術という自分の二大好物が大きな市民権を得ているのは、大きな移住の理由でした。
藤野は、戦時中に藤田嗣治をはじめとする疎開画家を受け入れた歴史からはじまり、芸術で町おこしをしようという「ふるさと芸術村構想」という運動を経て、多くのアーティストが活動してきた過去があります。芸術を学びの礎にするシュタイナー学園が藤野にやってきたのも、そういった過去の歴史からすると自然な流れだったのだと思います。
「こもりく」というアートイベントや地元陶芸家が出品する「陶器市」、旧牧郷小学校では「ひかり祭り」という廃校フェスが毎年催され、シュタイナー学園の保護者が中心となって「トランジションタウン構想」という持続可能な社会の実現に向けた市民活動を行うなど、さまざまな活動を通して藤野を知り、移住してきた人たちが折り重なっています。
そのため、この地域はいわゆる普通の田舎暮らしとは違う特異でユーモラスな人たちがたくさん住んでいます。人口1万人にも満たない小さな地域でありながら、人の特性としてはとても彩り豊かです。
そんな藤野の里山へと東京から移住してきて、変化したことがいくつかあります。ひとつは子どもの遊び方です。都市に住んでいると、子どもと「遊具のある公園で遊ぶ」というルーティンに陥りがち。でも、藤野の自宅近辺にはほとんど公園がありません。かわりに美しい山河と湖があります。
河原の岩山や小さな崖は、時に公園のアスレチックや滑り台よりダイナミックに子どもを楽しませてくれます。また、山河には、美しい魚や虫たちが住まい、深く蒼い清流や生き物たちが奏でる音や色は、人工物の中では得難い魅力を教えてくれます。
多くの人が安い賃料でそれなりの大きさの家に住めるので、お互いの家同士を行き来して遊ぶことも多くなります。人によっては、遊具や秘密基地を自作し、創意工夫して子どもの遊び場を作っています。
コロナ禍で最近はお休みになっていますが、マルシェ(有機野菜や食品、アートクラフトなどを屋外で販売する地域の小さな市)や子ども向けイベントは毎月のように催され、時に週末になると友人たちとバーベキューや持ち寄りパーティに興じることもあります。生物観察部や田んぼ作りなどの地域の活動もあれば、シュタイナー学園内でもいくつかのワーキンググループがあります。
みずから積極的に動けば、さまざまな楽しみが各地に隠れているのです。また、自分なりに楽しめるための場を作ろうと動くと驚くほど協力的で、どんなことでも懐深く受け止めてくれるのが藤野という場所だと思っています。シュタイナー学園というコミュニティも、自分が思っていた以上に、多様で趣のある人たちがたくさんおり、それが見事に支えあって成立している場所だと思います。
この町に難点があるとすれば、周囲の懐が深すぎて、突っ走りすぎても許されてしまうことと、スパイスがたっぷり入ったアジア料理の店がないことでしょうか。いずれにしても、親子共々とても有意義な暮らしをすることができています。都市に住む楽しさもあるとは思いますが、私にとっては、不便ながらも田舎で暮らすことの楽しさの方が性に合っているように思います。シュタイナー学園に入って新たなつながりの輪が広がり、これからが楽しみでなりません。
ライター/保護者 有田帆太