学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2021.08.18

教育

4年生の家づくり

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.113 2021.8.18

「紐くださーい!」

「何メートル?」

「2メートルでおねがいしまーす!」

4メートルの高さに築かれた、竹と杉の木と篠竹で組み立てられた家の上から威勢のいい声がつぎつぎ響く。畑と木々の緑生い茂る5月、14人の4年生は、家づくりに精をだす。

梯子を使い、梁の上にのって屋根を葺いている子どもたちのために、下にいる子どもたちが紐をせっせと切っている。

「投げるよー、そーれ!」

片手で藁の束を抑えながらもう片方の手をめいっぱいのばして、紐を受け取り、巧みに巻き結びで屋根を葺いていく。

「降りてよ! 僕はまだ一度も上に登っていないよ」

「いやだよ、まだやりはじめたばかりだもん」

子どもたちの仕事の取り合いに、高所恐怖症の担任はひやひや。それを子どもたちのリーダーとしてサポートに入っている職員が、後ろで見守っている。

下では女の子たちが篠竹を次々と並べ、竹枠に結び付けている。一度刈り取ってきた篠竹はあっという間に使い切り、再度、数人の子どもたちと近所に住む先生のお宅の山に行って篠竹を刈り取ってきた。せっせと篠竹を刈り、集め、自分の背丈の倍の長さのものを両手いっぱい抱えてずるずると道を引きずり運んできた。まるで小人たちが熱心に道路を箒掛けしているかのようなかわいらしい姿に、思わず笑みがこぼれる。

その前の日は体育館下から丸太をみんなで運んだ。半年前の秋も深まった11月に、林業体験で伐採してきた杉の木。次の日から、体育館下で皮むきに励んだ。ステンレスのへらを持ち、丸太にまたがり、軍手の手を幹に沿わせてせっせとむいていく。

「先生、こんなに長くむけたよー」

「もう半分以上むけた!」

うまくいった時の達成感が思わず声に出る。

あれから半年たった。

「懐かしいねえ」

持ち上げた丸太は思ったよりも太く重い。約3メートルの丸太を9本に切り分けたものを、体育館下から新校舎近くの畑(家づくりの場所)まで、2~3人で一本を運ぶ。大人2人でも大変なのに、子どもは顔をのけぞらせながら、口をきゅっと堅く結び、足元がふらつきながら校庭を突っ切っていく。

「大丈夫? 休みながら行っていいですよ」と声をかける。しかし、みんなの真剣な顔つきから、一気に運びたいという強い気持ちが伝わってくる。

そうして運んだ丸太は、その前の日から掘り続けた深い穴に柱として収まるのだ。4つの穴は4チームに分かれた子どもたちがそれぞれに掘り進めた。3つしかない道具を交代しながら協力して使う。

「先生、入ってみたら、こんなに深いよ!」

見ると体がすっぽりとはまって満面の笑みがのぞいている。

「すごい!」

と言った次の瞬間、ほかの子どもたちも次々と穴に入り始めた。

「先生、助けて! 出られなくなっちゃった!」

「先生、靴が脱げちゃったよー」

「楽しい! もう1回入りたい!」

子どもたちの喜びが詰まった穴の中に、慎重に丸太を1本ずつ収めていく。向きがずれたり、穴の途中で引っかかるなどの困難も乗り越え、立ち上がった4本の柱。びくともしないそれは子どもたちの意志の強さそのものだ。これまでの大人や自然界の守りの中から少しずつ立ち上がり、“自分”になっていく4年生。その柱を中心に、子どもたちは自分たちで工夫して竹を組み、篠竹を編み、藁を葺く。

今度は自分たちで、“自分”を纏っていくのだ。

ライター/教員 帖佐美緒