学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2021.09.01

教育

生きた体験から学ぶ― 8 年生のパラグライダー&カヌー合宿―

 

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.114 2021.9.1

バスから見える景色に、子どもたちから歓声があがる。富士の麓朝霧高原では、青々とした雄大な草原に牛たちがのんびりと横たわり、遠くに見える山々にはパラグライダーが点のように見える。飛んでいるのか浮いているのかわからないくらい時間が穏やかに流れている。今から自分たちが挑戦するパラグライダーに、興奮気味に「僕たちはあんなに高いところから飛ばないですよね」「えー、飛んでみたい」などと話は止まらない。

8年生は物理の授業で、力学について学ぶ。てこの原理から始まり、浮力、大気圧、揚力……身近な不思議が理解できるのだから、子どもたちにとっては雲が晴れたかのような学びで特別面白い学びだったよう。例えば、ロートに勢いよく空気を吹き入れたら、ピンポン球が吹き飛ばされずくっつく現象が実は大気圧の変化が関係していることや、鳥の翼の形がまさに気圧の変化を起こす形であることもそう。そのような学びを経て、実際にパラグライダーで揚力の力で飛ぶ体験をする。

インストラクターからパラグライダーの説明を受け、練習を重ね少しずつ高い丘へ移動する。普段は控えめな子も、まったく臆することなく挑戦している。風を受けて一気にパラグライダーのキャノピーと呼ばれるところが開く。大きくキャノピーが開き立ち上がっただけでも、拍手が沸き上がったほど感動的である。

残念なことに、やっている本人はその様子を見ることができない。子どもたちはコツをつかむのも早い。あちこちで扇型に広げられた色とりどりのキャノピーが立ち上がるが、風の力は強く踏ん張っているのもやっとなよう。徐々に丘の上から走り出し、ひとりがふわりと宙に浮いた。ほんの1メートルの高さでも大喝采が起きる。しばらくするとあちこちで飛ぶ姿が見られるようになった。子どもたちの顔は生き生きと輝いている。満ち満ちている顔。

パラグライダーが風に持ち上げられて地上から離れていく重さから解放される瞬間は、何とも言えず不思議な感覚になる。風と共にいるようで地上30メートルでも全く恐怖心を感じない。うまく風を受けて真っすぐ飛行した子もいれば、横にずれていってしまった子もいたが、次こそはうまく飛ぶぞ、と意気込み丘を登る。子どもたちからは、「鳥が飛ぶ感覚が分かった気がする」と声があがった。遠くに飛んだ子では130メートルを飛行した。どの子も清々しい顔で活動の終わりを惜しんでいた。

目に見えない大気に自分を預ける感覚と地面から急に自由になる感覚、言葉だけの「揚力」ではなく、「揚力」に生き生きとした体験が加わった。これが、目指す学びの姿なのだ。カヌー体験でも、澄んだ本栖湖の水の上で自分たちの力だけで舵をとる。漕がなければ進まず、一緒に乗る友達と息を合わせなければ進まない。湖を滑っていく感覚、力の入れ方によって進み方が違うこと。水の重さを感じたことなど発見はたくさんあったようだ。風が強く波立っている所では、風や水の抵抗がまさに挑戦といった感じで一番楽しそうにしていた。

思春期に入った子どもたちを支えるのは、自分の力を感じ、自分が舵をとる体験に他ならない。パラグライダー&カヌー体験はその例だ。また、野外炊飯では班で献立を決めて、自分たちで火を起こして炊飯する。なかなかつかない火に苦戦しながら、また多すぎる人参に笑いながらも楽しい時間が過ぎていく。役割を決めずとも自然にそれぞれの得意な役割を担っているのが面白く、盛り付け方も様々に工夫があって見ていてこちらまで楽しくなる。普段は見せない顔を見られるのも合宿の醍醐味だ。

四大元素の地水火風(古代ギリシャの哲学に由来する世界を構成する四つの元素)、そこに目に見えぬものの働きがあり、その力を全身に感じることができた合宿だった。友達と互いに支え合いつつ、新たな事に挑戦する喜びがあるからこそ、パラグライダー&カヌー合宿は子どもたちのなかで一番の思い出になっている。

ライター/教員 岩﨑有華