学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2022.04.27

教育

自らの体のあり方を知る 〜シュタイナー学園の体育〜

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.131 2022.4.27

「この学校は体育が好きな子どもが多いですね」。他の学校も知る教員から度々聞こえてくる感想のひとつです。小学1年生から高校3年生まで、子どもの発達段階にそったきめ細かいカリキュラムが特徴のシュタイナー教育ですが、「体育」はどのように行われるのでしょうか。体育教員の脇元克也先生にお話を伺いました。



脇元:シュタイナー教育の体育では運動技能を高めるだけでなく“自分の体のあり方に意識を向けさせる”ことも大切にしています。例えば『ボートマ体操』(※ドイツのシュタイナー学校の体育教員ボートマさんが考案した体操)という主に“姿勢”に働きかける体操があります。子どもたちには説明しませんが、年齢に応じた動きを準備運動に取り入れたりします。
 
− シュタイナー教育では、低学年の子どもたちの学びにはファンタジーの要素が多く取り入れられます。文字や数を学ぶときも小人や妖精がたくさん登場し、子どもたちは想像力豊かに漢字や計算を身につけていきますよね。
 
脇元:体育も同じでファンタジーの世界で体を動かします。低学年は体育の時間を『運動遊び』と呼び、鬼ごっこでも小人や巨人、猫などになりきって走り回ったり転がったり、自分の体ひとつでできることをひたすら繰り返して楽しみます。
 
− ファンタジーの世界から段々と離れていく4年生頃からは、少し複雑なルールのあるゲームやボールを使ったスポーツも取り入れていますよね。
 
脇元:たとえば野球に似た『コズミックベースボール』はボールを使います。でもバットはありません。ボールを投げたりとらえたり、打つのも自分の手を使います。 ルールを守ることの安心感も学びます。ただ、勝ち負けのつくゲームをしても、終わる時に得点は言わない。お互いの頑張りをたたえて礼をして終わります。思い切り体を動かし、そのなかで自分は何をできたかなと考えるのが体育の学びです。
 
− 中学生にあたる7、8年生ではラケットなど道具を用いたスポーツにも取り組んでいますね。
 
脇元:道具を使うということは、自分の体からさらに伸びた場所で何かをとらえる、高度な動きです。考える力も必要になる。そうしたことも発達段階に合わせて導入します。
 
− 高等部では子どものどのような発達段階をふまえて体育に取り組むのでしょうか? 
 
脇元:意志の力が伸びていく9年生(中学3年生)は、中・長距離走など、自分の意志の力が必要になる運動に取り組みます。長い距離を走り切るには途中で自分に負けない意志が必要です。自分で進む方向を決めるボルダリングを取り入れる学校もあります。意志を持って壁を登る突起をつかみにいかなければなりません。そして10、11年生(高校1、2年生)になると、今度は思考に働きかける内容を取り入れます。
 
− 具体的な例を教えていただけますか?
 
脇元:たとえば高等部で人気の『アルティメット』という競技は、アメリカンフットボールに似ていますが、ボールではなくフライングディスクを使い、タックルなどの身体接触がなくチームでパスをつなぎ相手陣にディスクを入れます。パワー勝負ではないので男女混合で行うことができ、審判は置かず選手たちのセルフジャッジで試合を進めます。 お互いを尊重し、そのプレイが正当なものかどうか常に意識します。問題があれば皆で考え判断していく。高等部で取り組むのにぴったりのスポーツです。
 
− 多くの中学・高校では男女別で体育の授業を行うことが多いですが、学園では男女一緒に体育の授業を受けることができるのですね。
 
脇元:成長の流れにそった内容を意識しますが、いつ何を取り入れるのかは子どもたちの様子を見ながら判断します。シュタイナー学園ではひとりの子どもをたくさんの教員が多面的に見て子どもの状態を共有します。自分が教えていない他の授業での様子もふまえ、このクラスではこれをやってみよう、このクラスにはこれはまだ早いから別のことをしよう、と考えながら決めています。
 
− 5月21日のオープンデイでは、大人のための体験授業に体育が登場します。
 
脇元:低学年の体育体験を予定しています。大人はつい色々考えてしまいがちですが、考えてしまうと本当の意味での体験になりませんよね。まずは何も考えずに子どもになったつもりで楽しんでいただきたいと思います。


勝敗や出来不出来にとらわれることなく体を動かし、長い時間をかけ成長を見守っていく。体育もまた、子どもたちが自分自身を知り自由に羽ばたいていくための、シュタイナー教育に欠かせない学びのひとつです。