2019.03.26
画一的でない学びは魅力的だったと今は思います
卒業生コラム 第19期生 坂本新太さん(前編)
【坂本新太さん】
シュタイナー学園第19期生の坂本新太さん。のびのびとした小学校生活、学びの面白さにのめり込んでいった中学時代を経て、都立国立高校へ進学、そして現在、東京大学教養学部(前期課程)に在籍され、今後は文学部での学びを希望されています。公立学校での学び、そして大学受験を経験するなかで改めて気づいたシュタイナー教育の特徴や面白さについて、お話しを聞きました。
シュタイナー教育と出会ったきっかけは何だったのでしょうか?
母親が都立高校で教師をしていたのですが、公立学校での学びに疑問を持っていたことや、子安美知子さんの『ミュンヘンの小学生』を読んでいたこともあり、シュタイナー学園に入学することになりました。ちょうど、三鷹の東京シュタイナーシューレから藤野に移転した年に入学。なので、僕らの代は藤野一期生なんです。入学にあたり、家族で高尾に引っ越して通うことになりました。
小学校の学園生活で印象に残っていることはありますか?
3年生で取り組んだ米作りは楽しかったですね。あぜを固めるところから、本当に一から取り組んで、脱穀もやって、そして半年以上取り組んだことを自分でノートにまとめる。4年生で取り組む家作りも印象に残っています。学年によってどんな家を作るのかはさまざまなのですが、僕の代の家は木をぐるっと植えてその木を壁にする「みどりの家」という家を作りました。奥多摩に星を見に行ったり、塩山の水晶峠に鉱物採集に行ったり。力学の体験として朝霧高原に行ったこともありました。まず自分で体験をして、そこから生まれた考察をノートにまとめていく、という学びはどれも面白かったです。
体験と結びついた学びだったのですね。
ノートをまとめる、というのは一般の学校だと黒板に書かれたことを写す、という印象があると思います。シュタイナー学園では、高学年になると、授業で先生の話を聞きながらメモをして、家に帰ってそのメモを元にまとめた文章を翌日先生に添削してもらい、そこからノートを作っていくんです。歴史の授業が好きだったのですが、聞いている話は同じだし歴史だから事実は同じなんだけれど、先生によってその時代や人物の背景、エピソードの中でどこに一番重点を置くかは、それぞれ違います。しかも、受け取る一人ひとりによって重要に思うポイントも変わってくる。さらに、人によってノートに絵をたくさん描く人もいれば、文章をたくさん書く人もいて、それぞれぜんぜん違うノートになるんです。友達のノートを見るのも楽しかったですし、画一的でない学びは魅力的だったと今は思います。あとは、中等部に入ってからは不二先生の国語の授業がとても印象深いです。不二先生の授業で扱ったのと全く同じ『伊勢物語』を進学した都立高校でも扱いましたが、自分で本文を写すところから始めて、文法事項や現代語訳まで全て自分で書き込んでノートを作り、挿絵を描き、折句集を作りということをする授業と、教科書を使った授業とは全く面白さや学びの深さが違いました。不二先生の授業では平家物語のときに琵琶の弾き語りをなさる方に実演していただいたり、竹取物語のときに水墨画を描いたりしたことも印象深いです。
シュタイナー学園の学びをとても楽しんでおられたようですが、高校は都立国立高校に進学したのはどうしてだったのでしょう?
ラグビーをやっていたので、本格的な部活としてやりたかったというのと、あとは外の世界も見てみたかったんですよね。進学のためのいわゆる試験勉強みたいなものも、わりと難なく出来るタイプだったんです。でも、9年生の一年間は学園生活がものすごく楽しくて、高等部に進学しないという書類を出す11月、ものすごく迷った記憶があります。
自らの手足を動かし何かと出会い、その体験が学びとなる、そんなシュタイナー学園での生活を経て、迷いながらも都立高校への進学という道を選んだ坂本さん。後編では高校生活、そして大学生活を通して今、改めて感じているシュタイナー教育や、シュタイナー教育を通して養われたものについて伺います。
ライター/中村暁野