2023.12.06
ドイツ・シュタイナー学校の多様な教育
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.172 2023.12.6
今年の8月にドイツを研修で訪れ、インクルーシブ教育(※)を行っているシュタイナー学校などを見学してきました。なぜこの研修をする機会を頂いたかというと、発達に課題を持つ子どもたちのシュタイナー学校とは、どんなあり方があるのか、実際どのような試みがあるのかを学びたいという気持ちがあったためです。8日間の見学では毎日が貴重な体験の連続でしたが、今回は大まかな概要と印象に残ったことについて書いてみたいと思います。
※人間の多様性を尊重し、障がいのある者と障害のない者が共に学ぶ教育。
最初に訪れた「Windrather Talshule」は障害を持つ子どもと健常な子どもとが同じクラスで共に学んでいるシュタイナー学校です。1年生から12年生までのクラスはそれぞれ20人から25人、クラスに障害を持つ子どもは平均3人ほどいて、ダウン症や知的障害、肢体不自由といった障害を持つ子どもたちでした。その子どもたちには1対1でサポートをする補助員が必ずひとりついて、学びや生活の手助けをしていました。
授業の内容は、私たちの学園と同じカリキュラムで行われています。ちなみに5年生クラスは「地理」のエポックでドイツについて学んでいるところでした。障害のある子どもも補助員の助けを借りながら、それぞれの子どもが出来る範囲で、地図を描いたり黒板に書かれた文字をノートに写したりして、一緒に学んでいました。他の学年でも、補助員の先生と一緒にクラスにいて、英語や数学などもサポートを受けたり、高学年によっては別課題を学んだりなどして、ともに過ごしている様子が見られました。
子どもたちは、障害を持つ人を特別視している感じは全くなく、仲間のひとりとしてごく普通に受け止めていることが、授業の中だけではなく休み時間や食堂でのコミュニケーションをとる姿に表れていました。この学校の創始者のひとりであるバーベル先生の話の中で印象に残ったのは「違いを受け入れるということ、お互いがお互いを助け合う、それがインクルーシブ教育です」という言葉でした。インクルーシブ教育とは何なのか、その本当の意味が、初めて腑に落ちた瞬間でした。
次に訪問をしたのが日本では特別支援学校にあたる「Troxler Schule」です。知的障害を持っている子どもたち、1年生から12年生まで総勢90人くらいが通うシュタイナー学校です。1クラスに3人から5人の補助員が入っていました。
学びのカリキュラムは通常のシュタイナー学校と同じです(内容は子どもたちに合わせたものになります)。5年生のオイリュトミーの授業で、車いすの子どもは補助員の方が押して車いすごと空間を動き、体に麻痺のある子どももオイリュトミーの動きをわずかな腕の動きで表現していました。障害があってもなくても、全ての子どもたちがその年齢で必要な学びを行う、その教育がなされているのです。
「人の本質的なものは健常なのだ」というシュタイナーの言葉を、この学校の先生が障害を持つ子どもたちを見る大切な観点として話され、それゆえに確信をもってシュタイナー教育を行っていることが伝わってきました。
また、小さなクラスで知的な学びよりも具体的な学びを、ということでインクルーシブ教育の学校から「Troxler Schule」に転校してくる子どももいるということを伺いました。障害を持つ子どもにとってインクルーシブ教育の学校と特別支援学校のどちらが良いかは、周りの大人がよく見極めてあげる必要があるのでしょう。
最後に、このふたつの学校見学は、ドイツとは制度上違いのある日本で(※ドイツでは州からの費用で補助員が雇用されています)、実現できることはどのようなことなのかについて考えさせられる研修となりました。現在の日本でドイツの学校のような多様な教育を実現するのは容易ではなく、まだまだ多くの課題が残ります。今回、このような研修の機会を頂いたことに感謝し、小さなことからでも力を尽くして未来へつなげていきたいと思っています。
ライター/教員 加藤優子