2023.03.01
学園通信 2023年3月発行号
学園通信(2023年3月発行号)ができました。 (PDF版はこちら p.1&8 p.2-3 p.4-5 p.6-7)
<主な内容>
・特集:世界とつながるシュタイナー学園
・シュタイナー学園「あるある小噺」1年・4年編
・FUJINO STEINER COLUMN 20期卒業生 山口 葵さん
・シュタイナー学園の未来へ シュタイナー学園理事 岩下千草
・シュタイナー学園にご寄付いただきありがとうございます!
【特集】世界とつながるシュタイナー学園
~1年生からの外国語教育と、子どもの可能性をひろげる交換留学~
世界に1000校以上あるシュタイナー学校のネットワークを活かし、高等部では交換留学を行っています。今回はシュタイナー学園で外国語を教える教員に、外国語の学び方や交換留学の仕組み、それらが子どものどんな力を育んでいるのかについて語っていただきました。
座談会
田村正美先生(7年生担任・英語専科担当教員)
廣田聖子先生(10年生クラスアドバイザー・英語専科担当教員)
馬場愛子先生(初等部中国語専科担当教員)
ライター/木村未来 イラスト/内田松里
赤ちゃんが言葉を学ぶように―初等部の外国語の授業
馬場:シュタイナー学園では現在、1年生から英語と中国語の授業があります。2つの外国語を学ぶことにはどんな意味があるのでしょう?
田村:1・2年生ぐらいの子どもはまだまだ模倣する力が強い時期です。先生の言うこと、動きや歌、発音を全てそのまま真似できる。この時期から外国語に触れることで、赤ちゃんが言葉を学ぶような感じで外国語に親しんでいると思います。
馬場:遊ぶような感覚で「体験」として学べるのですね。中国語では4年生ぐらいからそれまで唱えていた歌や詩を漢字で見せ始めますが、英語では文字はいつから扱いますか?
廣田:3年生くらいからアルファベットを習います。それまで親しんできた音と文字の形がイメージをともなって学べるようになっています。
田村:例えば物語を語りながら絵を見せ、王様(King)の剣の形からKの形が現れると子どもたちは新鮮に喜びます。1年生でひらがなを学んだのと同じ方法ですが、3年生はまだイマジネーションやファンタジーの力を借りて音から文字につながる体験ができる年齢です。
廣田:4年生ぐらいから先生の言った単語をアルファベットで表すゲームや、英語の劇を行います。一人ひとりが全員のセリフを最初から最後まで全部覚えてしまいます。普段の生活でも、劇の中と同じ状況を見つけるとその場面で言うセリフが思わず口から出てくる。文法もまだ知りませんし、言葉の意味もどこまでのみこめているかわかりません。でも劇は楽しい。その楽しさが後の文法の学びにもつながります。
体にしみこんだものから文法を学ぶ―中等部の学びへ
馬場:中等部ではどのように文法を学ぶのですか?
廣田:動詞の活用などは小さい頃から唱えています。
田村:例えばゲームですね。現在進行形のフレーズを何度も使うようなゲームを2・3年生でやります。ゲームで唱えたことを子どもは覚えていて、中等部で文法として教わったときに「あれだ!」と結びつけることができます。
廣田:7・8年生(中学1・2年生)では文法をしっかりやります。うまく理解できない子どもにはサポートが必要です。そんなとき、テストをすると必ずよくできる子がいるんですね。よくできる子とまだ理解できていない子を同じグループにしてテストの直しをすると、子ども同士とても上手に教え合います。大人は文法でつまずくポイントを忘れてしまっているけれど、子どもはどこが難しくてどうしたら理解できるかよく覚えている。だから子ども同士の教え合いはすごく成長します。
馬場:できている部分とできていない部分がわかる、自分の成長を確認するという意味でテストをうまく使うのですね。
廣田:わからなかったところがわかるようになると「先生、同じテストもう一回やってください! 今度はできるから!」と言われます(笑)。
田村:あえて同じテストをやったりしますね。できるようになったことを褒める機会になります。
廣田:そして8年生では現代英語が使われている英語劇を行います。必要な文法事項がセリフの中に入っている。劇で覚えたセリフを使うと文法もすんなりと理解できます。
成長に即してより知的に―世界を広げる高等部の英語
馬場:高等部では授業に変化はありますか?
廣田:高等部になると子どもの発達に沿って学びも知的になっていきます。例えば、9年生(中学3年生)の英語では「伝記」を扱います。偉人に限らず何かを突き詰めてやり遂げた人のことを学びます。まず教師がひとりの人物の物語を語って聞かせます。ひと通り文法も教わっていますし、難しい単語は使わないので全て英語でもわかります。いきなり英語で文章を読むのは難しくても、聴くことで読めるようになるんですね。夏休みに自分が気になった人物について調べ、2学期に発表します。ある人物に親しみを持ってもっと知りたいと思うとすすんで勉強します。文章を読むときには行間をイメージするように伝えます。その人がどんなことにショックを受けたり感動を覚えたりしたのか想像しながら読むと、自分の心も動く。その心の動きを今度はクラスのみんなに伝えたい、と思って発表に臨むことができます。
田村:先生がまず自分の感動を子どもたちに伝え、それを子どもたちが受け取る。授業の内容としては読解だけれど、先生が語って聞かせるのは、小さなころから先生のお話(イソップ童話などの素話)を聴いていたこととつながっていますね。
廣田:外国語ではこの「伝える力」をつけてほしいと思っています。また、伝記を学んでみると、すごい人ほど大体15歳くらいまでに一度は挫折や試練を味わっている。人生にはいろいろあるんだ、いろいろあっていいんだ、ということを感じられるのもよい点です。
馬場:思春期の子どもに必要な学びですね。
田村:外国語の授業でも他の授業同様、子どもの成長にとって何が必要か、その時期の子どもには何が栄養になるのか、ということを大切にしています。12年生なると英語のスピーチもレベルが高く、伝えたい内容も社会的なテーマなど多様です。シュタイナー学園の外国語の授業は、人に伝えようとする姿勢を育てているのだと思います。
世界とつながる子どもたち―シュタイナー学校どうしの交換留学
馬場:高等部には交換留学制度もありますね。
廣田:交換相手が見つかれば、世界に300校ほどあるシュタイナー学校の高等部に留学可能です。ただし、授業態度や課題提出など、日々の学びにしっかりと取り組んでいることが前提です。ビザの関係で3ヶ月以内が基本ですが、生徒が自分で行きたい学校へ手紙を書き交換留学の相手を見つけます。ただ、交換相手とは基本的にお互いの家庭にホームステイするので、家庭での受け入れ態勢がないと難しいです。他の学校から申込があって交換留学をした生徒もいます。これまで、ドイツ、ラトビア、韓国、ブラジル、イスラエル、ハンガリーなどさまざまな言語の国から申し込みがありました。
馬場:英語圏以外の国でも留学できるんですね。
廣田:いえ、そう簡単にはできません。英語以外の言語の国に行く場合は、その言語で日常会話ができるぐらいに自主的に勉強した生徒のみ行くことを許可しています。また、条件が整わず交換留学ができない生徒でも、夏休みに海外のシュタイナー学校のサマーキャンプなどに参加することが可能です。
馬場:そうした場に参加すると英語も活用できますね。
廣田:とても刺激を受けて帰ってきます。海外へ進学するきっかけになる生徒もいます。
馬場:生徒の留学に対して、教員はどのように関わるのですか?
廣田:教員は留学を希望した生徒全てを送り出すわけではなく、それが本当にその生徒にとってプラスになるかを慎重に見極めます。留学よりも先になすべき課題がある生徒にはすすめません。家族はホームステイの受け入れもしますし、留学がその生徒と家族の幸せにつながるのかということを考えます。不安がある場合は話しあい、自分が変わらなければいけないと知って、それでも留学したい生徒は変わる努力をします。そういう意味で留学は子どもと家族全員にとっての大きな成長の機会ですね。
「共感力」を育てるシュタイナー教育の外国語
馬場:最後に、シュタイナー教育の外国語の授業は「共感力」を育てると言われますが、2つの外国語を学ぶカリキュラムでこの力はどう育つのでしょう?
田村:私は日本からアメリカへ行ったとき、2つの国それぞれの良い面・悪い面を感じました。けれどその後3つ目の国で暮らしたときに、良い悪いだけでなく、それぞれが違っていていいんだ、という意識に変わりました。母語、英語、中国語という3つの言葉を学ぶことで、それぞれの違いを受け入れる体験ができていると思います。それはこの学校の子どもたちが転入生を受け入れるときの力にもつながっていると感じます。
廣田:私は特にみんなで唱える詩と歌が「共感力」を育むことにつながっていると感じます。何度も繰り返す詩や歌を通して、言葉の響きや思い、意味が伝わってくる。最初は意味がわからなくても唱え続けることでイメージが蓄積され、わからなかった単語も「あ、こういう意味かも」という感覚をつかめたりします。そのイメージする力が共感力につながると思います。
馬場:先ほど、英語の授業では「伝える力」を大切にしているとおっしゃっていましたが、受け入れる力も育っているのだと思いました。シュタイナー教育の外国語の授業は、知識として学ぶのではなく、人間そのものを育てているんですね。
廣田:そうなんです。だから外国語のクラスにその言語が話せる子どもがいても全く問題ないんですよね。
(プロフィール)
田村 正美(Masami Tamura) 20年近く海外で過ごし、2014年に子どもをシュタイナー学園に通わせるため帰国。2016年よりシュタイナー学園英語専科教員。2018年にクラス担任として引き受けたクラスは現在7年生。バンコク・日本国内でのシュタイナー学校教員養成講座を受講。
廣田 聖子(Seiko Hirota) 高校時代から海外で過ごし、アムステルダム大学大学院卒業。国内で会社員を経て、教員免許を取得、同時に国内のシュタイナー学校教員養成講座を受講。2017年よりシュタイナー学園英語専科教員。2020年より高等部アドバイザー。
馬場 愛子(Aiko Baba) 大学3年生から中国語を学びはじめ、日中間ビジネスで通訳・翻訳を経験後、出産を機にシュタイナー教育と出会う。国内のシュタイナー学校教員養成講座受講を経て、2019年よりシュタイナー学園で中国語専科を担当。
シュタイナー学園 あるある小噺 1年・4年編
日々めざましい成長をみせるシュタイナー学園の子どもたち。
担任の先生に成長段階で起きる学園らしいエピソードをおききしました。
~1年~
お外遊びから教室に帰ってくる1年生。にこにこ顔で廊下をスキップ。楽しいことが待っているのかな。
甘えん坊の1年生。「お帰りのしたくをして、自分のお席に座りましょう」そう言ったあとに、担任のもとにやってきて、お膝の上にちょこん。
冬になると教室では石油ストーブをつけますが、時々授業の最中に、メロディーが鳴りだすことがある。すると子どもたちは、「あ、ストーブも歌ってる」「声が大きいなあ」
1年が過ぎるころには、学校にもずいぶん慣れてきた1年生。「ねえねえ、先生」そう言いたかったけれど、出てきた言葉は「ねえ、ねえ、ママ」「あ、違った」。たくさんの時間を過ごすと、こんなことがたびたび起こる。
~4年~
「お花係やります!」男子4人がお花摘み。花瓶にきれいにお花を活けて嬉しそうにお仕事。美しいものを大切にする心が育っています。
体育着を忘れた人は見学だよ。
「ぼく絶対大丈夫」
なんで?
「だってもう、服の下に着てきたんだもん」
FUJINO STEINER COLUMN 20期卒業生 山口 葵さん
シュタイナー学園の未来へ シュタイナー学園理事 岩下千草
今年度も、皆様から温かなご支援を賜り、ありがとうございました。寄付者のご芳名を本誌にてご紹介させていただくと共に、皆様のご温情に深く感謝申し上げます。本学園は、これまでもシュタイナー教育を広めたいと願う多くのかたがたとの、連綿と続く関係に支えられて参りました。現在は、施設や教育活動の改善・拡大へ向けた議論がなされています。寄付の多様化により、金銭的貢献だけではなく、共同体に埋もれている人や情報・モノなどのリソースが循環され活かされるよう、未来を形成するコミュニティを力強いものにしていきたいと願っております。今後とも末永くご協力を賜りますよう、よろしくお願いいたします。
シュタイナー学園にご寄付いただきありがとうございます!
シュタイナー学園は1987年に東京都心のビルの一室からスタートして以来、さまざまな方のご支援をいただきながら35年以上もの歴史を築いてきました。2022年には新たに寄付サイトも設立し、多くのかたがたにご寄付をいただきました。心より感謝申し上げます。藤野地区にある現在の校舎は、廃校となった小学校を保護者が中心になって改築を重ねて使っていますが、老朽化も激しく、大きな改築工事等も必要な状況となってきています。また、シュタイナー教育を世の中に広めていくための新しい活動なども始めていきたいと考えています。今後とも皆様のご支援をどうぞよろしくお願いいたします。 寄付専用ページ
2022年寄付者ご芳名一覧(寄付受付期間:2022年1月~12月)
(五十音順、ご寄付時に、広報物への掲載可とされたかたを掲載しています。)
<個人>大野建治 様、大野司 様、大野典子 様、小野篤人 様、鹿俣智裕 様、神田悟 様、小林千愛 様、他27名(延べ80回)合計 2,586,000円
<団体>シュタイナー学園学園をささえる会 様、他1団体(延べ4回)合計 6,295,068円