2018.12.24
『答えは一つじゃない』というシュタイナー教育の中では、人と比べられることがありませんでした
卒業生コラム 第6期生 松本陵磨さん(後編)
【松本陵磨さん】
シュタイナー学園第6期生で、現在広島県竹原市にある久野島産業株式会社の代表取締役を務めつつ、広島大学の客員講師として英語とフランス語の講義を担当している松本陵磨さんのお話、後編をお届けします。前編では日本とイギリスのシュタイナー学校に通った後、日本の公立高校へと進学するまでをお聞きしました。後編では現在、教育や経営を通し、改めて感じるシュタイナー教育から得たことについてお聞きします。
ギャップを感じながらも過ごした高校時代の後、広島大学に進学されたのですよね。
将来教育に携わりたいと教育学部に進みましたが、一教員に出来ることには限りを感じ、いずれ学校をつくりたい、だったら経営を学んだほうがいいのではないかと思いました。スコットランドのエディンバラ大学に半年留学したりスペインの大学への編入を考えたり紆余曲折経て、人との出会いもあり結局東京の上智大学に編入し、比較文化学部で国際経済・ビジネスを専攻しました。今の国際教養学部にあたる学部なのですが、講義の言語は英語で、複数の国にルーツを持つ人や帰国子女の人が多く、多様な文化を持つ人達の中で、ナチュラルに過ごすことができました。
上智大学卒業後はさらにパリ=ソルボンヌ大学に進まれたそうですね。
在学中に国連のインターンシップを経験し、国連で働くことにも興味を持ち、フランス語も学びたいと思いました。国連は英語だけではなくフランス語もできた方がいいんです。パリ=ソルボンヌ大学に進み、さらに中東のアラブ首長国連邦アブダビにあるパリ=ソルボンヌ大学大学院分校で修士課程を終えました。同時に友人とともにソーシャルマーケティング会社の立ち上に従事しながら、博士課程も取ろうとしていた時に、転機が訪れたんです。
その時その時出会うものごとに興味を持ち、関わり、世界が広がっていく松本さんのお話は密度がすごいです。
広島の竹原市というところで観光産業に関わる会社を経営していた親族が急逝してしまい、帰国し運営に携わることになったんです。それが2013年のことで2014年には代表取締役に就任しました。
大きな転換でしたね。
野生のうさぎが多数生息することで有名な大久野島(うさぎの島)に観光のためのフェリーを出す港の運営をする会社です。島にゴミを残さないような取り組みをしたり、会社という枠の中でも利益を追求したりするだけではなく、社会にとって有益と思えることが出来るか、取り組むことは山のようにあります。そして幸いにも、繋がりによって広島大学の客員講師として英語とフランス語を教えることにもなりました。
ずっと携わりたいと思っていた教育の現場に立つことができたんですね。
自分が中学時代にイギリスで自然と習得した英語という言語を、日本の公立高校で理論的に整理できたのも役にたっていると感じますが、自分の講義にはシュタイナー教育で得たことが大きく影響していると思います。文法はあるけれど言語というものに『答え』はないと思うんです。教科書にのっている例文は例文でしかなく、生きた言葉ではないのですから。そういった授業をしていると生徒は『今まで習ったことのない英語』『面白い』といってくれ、最初1コマだった講義も7コマまで増えました。
改めて振り返ってみて松本さんがシュタイナー教育を通して学んだこととはなんでしょうか?
自分の価値観がぶれない、というか自分を信頼出来るということでしょうか。『答えは一つじゃない』というシュタイナー教育の中では、人と比べられることがありませんでした。人と比べることは『これが正しい』という物差しに沿って比べ、優劣をつけるものだと思います。だけれど丸いものと重いものと長いものを比べることに意味はないと思います。それぞれが違うからこそ、一人一人に役割がある。そう思えるからこそ、誰かと比べることなく自分自身を信頼できる、そんな力を育んでもらったと感じています。
自分は何にでも興味を持てるし楽しめる、とおっしゃっていた松本さん。言葉の通り意欲にあふれ、思いを実行する行動力を持ち、だけれどブレずに自分というものを持ち続けられる。その根底にあるのは、自分を信頼出来るという肯定感だということが、とても印象深いお話でした。今もなお学び続けるかのように働いている松本さんの今後が楽しみです。
ライター/中村暁野