学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2019.05.02

卒業生

『何か』を自分で一つ一つ見つけていく力。それがあって、今があるんだと思います

卒業生コラム 第10期生 藤井拓麻さん(後編)

藤井拓麻さん
シュタイナー学園第10期生として高等部に編入された藤井拓麻さん。現在相模原市で、ご自分のお店であるドイツパン専門のパン屋「ハウミューレ」を営まれています。前編ではシュタイナー学園で過ごした高校時代から卒業後、ドイツに渡ったきっかけを伺いました。後編ではドイツでの生活、そしてパン屋という道を歩むまでのお話を伺います。

前編はこちら


シュタイナー学園高等部卒業後、ドイツのシュタイナー関連福祉施設のボランティアプログラムに参加し、ドイツで過ごされたのですよね。

ドイツのキャンプヒルHausenhofでボランティアとして働きました。キャンプヒルというのはシュタイナーが提唱した社会活動のひとつで、障害をもった方と共に生活する共同体です。僕が過ごしたキャンプヒルも小さな村のようになっていて、市役所のようなところがあり、パン屋さんやチーズ屋さん、服屋さん、ランドリーなど、生活に必要な施設が揃っていました。そんな中に家が9棟ほどあって、各家に障害を持つ方が8人ほど暮らしていました。そこで暮らしながら、最終的に障害を持った一人の方の生活の補助を全面的にしていました。同時期にタジキスタン、グアテマラ、メキシコ、ペルーからのボランティアが来ていて、みんな最初はドイツ語もろくにしゃべれない中でコミュニケーションをとっていました。そのプログラムは1年間の決まりなのですが、施設側とボランティアスタッフ双方の希望があれば半年延長できたので、結局1年半過ごしました。

帰国して、一度は大学進学を目指されたと聞きました。

父親の希望もあり、今まで好きにやらせてもらった分、一回受験してみるかと一年間は受験に当てることにしました。ところが前期試験は落ち、後期試験を受ける直前に東日本大震災が起こり、試験自体が中止になったんです。その時に『一年受験に費やしたし、もういいだろう。もう一回ドイツに行きたい』と思いました。ドイツの友人とはずっと連絡をとっていたので『ドイツでパン屋の勉強をしたいんだけど、どうしたらいい?』と聞いたところ、近くのパン屋さんを紹介してくれて。そのパン屋に電話したら『今どこにいるの?』『日本です』『とりあえずドイツ来ちゃいなよ』という感じだったので、大使館で手続きをしてドイツに行きました。

パンの勉強がしたいと思ったのはいつ頃だったんでしょうか?

キャンプヒルにいた時、そこでパン屋をしていた人と仲良くなり、週に一回パン屋を手伝っていたんです。若い職人さんだったんですが、素材にもこだわっていて、パン作りって面白いなってその時に思ったんです。ドイツは職人はなんでも国家資格が必要で、もちろんパン屋もパン職人として国家資格が必要です。その分、職人には手厚い制度がいろいろとあります。

ドイツではご友人に紹介してもらったパン屋さんで修行したのですか?

週4日はそのパン屋さんで見習いとして働き、週1日はパンについて理論的に学ぶ職業学校に通い、3年を過ごしました。そして国家試験を受け合格し、パン職人としての資格を持って日本に帰ってきました。帰国後、日本のパン屋さんで働いたのですが、ドイツのパン屋とは全然違う働き方に腰を痛めてしまいました。そんな時になぜか出資してくれるという人が現れたり、安い物件に出会ったりということが重なって、自分のパン屋を開くことになりました。

ドイツと日本のパン屋の働き方は、どう違ったんでしょう?

ドイツのパン屋は朝3時くらいから昼の12時くらいまで働いて、パンは一回焼き、売り切れたら仕事は終わり、という感じです。でも日本のパン屋は朝早くから夕方まで延々と焼き、売り切れたらまた焼いて、焼きたてを出すのが当たり前。ドイツではパンは食事に欠かせないものですが、日本ではパンはどちらかというとオヤツや惣菜パンが食べられていて、種類もとにかく多く、それらをすべて揃えるためには長時間労働するしかなくなってしまうんだと思います。

藤井さんの焼く、素朴だけど味わい深い本格的なドイツパン。

お店をオープンされて、4年経ったと聞きます。

この春で5年目になります。ドイツパンというと馴染みがない方も多く『ドイツパンってどんなパン?』と聞かれることもありますが、わざわざ遠く都心から買いに通ってくれるお客さんもつきました。ライ麦のパンを6~7種類、あとは季節によって何種類かのパンを焼いています。今後、いつかは家と一緒になったパン屋ができたらいいなと思っています。生活と仕事を一体化できるのが理想です。

最後に藤井さんがシュタイナー教育で得たものがあれば教えてください。

学生の頃、僕は自分がパン屋になるとはおもってもいませんでした。シュタイナー学園は『こうならなきゃいけない』みたいな形を押し付けず、何でも好きなことをしていいよ、と言ってくれる環境です。だからこそ自分の『やりたい』という思いがないと何も動けない。何もないところから『どうしよう?』『何をやって生きていけばいいんだろう?』と考える力はすごくついたと思っています。何だってやっていいんだよ、と言われて、その『何か』を自分で一つ一つ見つけていく力。それがあって、今があるんだと思います。


生き方を見つけるのに、焦る必要なんてないのかもしれない。自分は何がしたいんだろう?と、その時その時まっすぐに向き合う中で、ひとつ見つける好きなこと、楽しいこと。自分の見つけた感覚を信じて進むことができれば、好きなことや楽しいと思ったことが、仕事となり生きる道となっていくのかもしれない。そんなふうに思わせてくれる藤井さんのお話でした。

Haumuhle(ハウミューレ)
神奈川県相模原市中央区小山3-29-10
ドイツパンのお店 9時〜18時 月、木定休 土日はサンドイッチもお作りしています。


ライター/中村暁野