2019.12.25
答えを教えるのではなく、自分で答えを見つけるサポートをしてくれる学びだった
卒業生コラム 第20期生 東出風馬さん(後編)
【東出風馬さん】
シュタイナー学園第20期卒業生の東出風馬さんは学園在学中の17歳の時にコンパニオンロボットを開発する会社を起業し、現在株式会社Yoki(ヨキ)の代表取締役社長を務めています。小さい頃からものづくりが大好きだったという東出さん。前編ではシュタイナー教育と出会ったきっかけや、学校生活と両立していた起業について伺いました。後編では、現在会社として取組んでいること、コンパニオンロボットを通して描きたい社会についてのお話をお聞きします。
卒業時には関係者も増えていたという東出さんの会社・Yokiとは、どんな会社なのでしょうか?
会社を起業した当初は、感情のコミュニケーションがとれるロボットを作り、販売しようと思っていました。今の情報技術が人に与えているもの、AmazonにしてもYouTubeにしても、何か一つを選択すると、それに類似する情報がお勧めとしてどんどん流れてくるわけですけど、それは人がとった行動に対してのレコメンドです。でも人は、何かを選択する時には迷ったり、悩んだ末に選択しなかった行動がある。でも『選択しなかった行動』は機械の処理ではなかったことになってしまう。揺れる感情みたいなものを無視してしまう社会って、とてもストレスフルな社会なんじゃないかと思うんです。より生きやすい社会のために何ができるかと思った時に、人のそういった揺れる部分のコミュニケーションがとれるような情報端末を作りたい、人と機械の間にある障壁をなくしたい、と思ったんです。それでコミュニケーションがとれる木製ロボット『HACO(ハコ)』の開発を進めていました。『HACO(ハコ)』の販売に向けて開発を進めていましたが、コストを抑えて安定したものを製造し続けるのって、かなりハードルが高い。それに加えて、コンパニオンロボットってどの企業も数百億円くらいかけて開発して販売しているのに、軒並み苦戦しているんです。コンパニオンロボットは近い未来にきっと来るニーズだと思います。でも、今ではない。現在、取り組んでいる事業は『LOGY(ロジー)』というプログラミングを学ぶことのできるサービスの提供です。
具体的にどのようなサービスなのでしょうか?
プログラミングを教えることができる先生と学びたい生徒をマッチングするサービスで、パソコンとネットがあれば世界中どこからでもプログラミングを学ぶことができます。プログラミング教育は2020年から小学校でも必修科目になるのですが、日本で行われようとしている今のプログラミング教育には不満があります。例えば、よく教育現場では黒い線をトレースするロボットをマニュアルに沿ってつくりますが、そのロボットをつくれるようになったとして、すごいかもしれないけれど、何のためにつくったの?と思うんです。LOGYでは、まず生徒の『こんなことがしたい。こんなものをつくりたい』という思いがあって、それを実現するためにプログラミングする。教えるのではなく、作りたいものを作る手助けをする。強化学習ではなく探求学習としてのプログラミング教育を行っています。お母さんがいつもエアコンを消し忘れちゃうから、忘れた時に知らせる何かができないかな、じゃあその通知がいくようなプログラミングってできるかな、みたいな小さなことでいいと思うんです。でもそんな小さなことでも、自分が作るものによって誰かを喜ばせたいとか、課題を解決したいとか、そういう思いが起点になることはとても大切なことだと思います。
シュタイナー教育では小さい頃、インターネットなどの情報にふれることは推奨されていませんが、これからの情報社会の中では小さい頃からネットなどに触れた方がいいと思われますか?
さっきも話したように、今の技術が人に与えてくれる情報って、その人が選択した結果から与えられるので、ある意味欲しい情報しか手に入らなくなっていく。それってすごく視野を狭くして可能性を狭めていくことだと思います。まだ自分の軸を持っていない子どもがその偏った情報にさらされることは、すごくまずいことなんじゃないかとも思っています。僕が初めてパソコンを持ったのは高校2年生にあたる11年生の時です。情報ってやり始めたらいくらでも簡単に、誰でも手に入れられるので、テキストや音声、映像の情報にふれるというよりも肌感覚として体感できる情報に触れていくのが良いんじゃないかと思います。
東出さんがシュタイナー学園で得たと思うものはありますか?
他の学校に通っていないから比べられないけれど、自分の好きなことを思いきりやることを応援してもらえる環境でした。だからこのように良くも悪くも、好きなことしかやらない今の自分がいると思います。子どもの頃、僕が何かが欲しいというと、母はそのものはくれないけれど、それがどうやってできているかが書かれた本や、材料を買ってくれた。その方が手間もお金もかかったと思うのですが、そうやって自分で何かを作っていく経験をさせてくれた。それは学園の学びも同じで、答えを教えるのではなく、自分で答えを見つけるサポートをしてくれる学びだった。それが今の自分につながっているのだと思います。
幼い頃から自分のやりたいことを追求し続けて実現し、活躍されている東出さん。そのやりたいことの根っこには「世の中を良くしたい」という、自分以外の人につながっていく確固たる思いがあることがまた、素晴らしいと思いました。
加速していく情報化社会の中で、東出さんが形にしようとしていることはとても重要になっていくのだと思います。今後の活躍をますます楽しみにしています。
ライター中村暁野