2022.11.02
ものごとに対して「あなたはどう考えるのか?」と課題を通して問われているように感じていました
卒業生コラム 第20期卒業生 戸田樹さん(後編)
現在ダンサーとして活動しながら、ダンス教室で子どもたちに指導もしている戸田樹さん。活発で元気いっぱいだった幼少期から、オーケストラ、コーラス、バンド、ダンス、とさまざまな活動を通して自己表現に夢中になった高等部まで、シュタイナー学園で過ごした時間を振りかえっていただきました。
高等部に入ってダンスを始められたと聞きました。
9年生の時に映画「雨に唄えば」を観て、劇中に出てくるタップダンスに衝撃に受け、「タップダンスをやりたい!」と思いました。両親が教室を探してくれ新宿にある教室に通いはじめました。同じ頃にシュタイナー学園の高等部で2学年上の先輩から「ダンス部を立ち上げるから入らない?「と誘われ入部しました。顧問の先生はいるのですが、ダンスの指導をしてくれるわけではないので集まった部員で「こんなダンスがあったよ、やってみよう」と…とにかく見よう見まねではじまった感じでした。
もともと表現することに興味があったのでしょうか?
低学年の時から表現することが好きでした。自己表現の方法をずっと探していて、「これだ!」と夢中になったものがダンスでした。高等部ではバンドでドラムも始め、オーケストラやコーラスにも入り、あらゆる部活を横断していました。どの部も練習が週1回程度だったのでかけもちできました。タップダンスもやっていたので、忙しかったのですが、楽しく充実していました。高校生活はやりたいことを全部やって、謳歌していました。
高等部になると課題も多いと聞きますが両立は大変ではありませんでしたか?
たしかに高等部は提出する課題も増えますが、ものごとに対して「あなたはどう考えるのか?」と課題を通して問われているように感じていました。授業もたとえば農業実習で体験したことをもとに国語の授業で詩を書いたり、学びと学び同士が繋がって、その中で思考していく。自分と向き合う課題は大変なこともあるけれど、とても面白かったので表現活動と同じくらい学ぶことも楽しかったですね。特に高等部の実習は、どれもが面白かった。
たくさんの実習がありますが、とくに印象的な実習はありますか?
航海実習ですね。クラスで帆船とボートとチームに分かれて2泊3日で伊豆半島を航海しました。船長はいますが、自分たちで海図を書いて、帆を立てて、操縦して……、海の上で見た朝日は忘れられないし、船の最先端にひとりで立って風を感じたのは衝撃の体験でした。
卒業後のことはいつごろ考え始めたのでしょうか?
12年生で取り組む3大プロジェクト(12年生劇、卒業プロジェクト、卒業オイリュトミー)には全力で取り組みたいという思いがありました。並行して大学受験の準備をして現役合格を目指す必要を感じなかった一方、「自分は教えることが好きなのかな?」と思いはじめました。ダンス部で後輩に教えるようにもなり、人に何かを伝えられることに喜びを感じるな、と気づいたんです。教師という道もいいかもしれないという思いと、ダンスをもっとやりたいという思いを持って卒業しました。卒業後はしばらくダンススタジオに通い、ダンスの本場LAに行きたいと思うようになりました。スタジオの先生でもあったダンサーの方に紹介してもらって、2020年の1月、成人式には出ず、LAに向かったんです(笑)。現地のダンサーの家に泊めてもらいながら3ヶ月間、ダンススタジオに通いました。
単身でアメリカに。
最初は圧倒されましたが、むこうのレッスンは誰でも、経験がある人もない人もウェルカムな空気の中、「自分のスタイルを見せて」と言われるんです。振り付けは先生がつけたものだけれど、その中で「あなたを見せて」と言われる。とても難しいことなのですが、わたしは、むしろその言葉がしっくりきたんです。ダンスをしながら自分のスタイルを手探りで探していたのですが、「わたし」を見せればいいんだ、と思ったらひとつ殻を破れたような気がしました。その後コロナ禍になってしまい帰国したのですが、LAでの経験で得たものは大きかったです。
帰国後、今はご自身で踊りながらクラスを持って教えることもはじめられているそうですね。
通っていたダンススタジオの先生のすすめもあり、クラスを持たせてもらいました。今、子どもたちにダンスを教えています。同時に、英語教員免許を取得しようと通信制の大学で学んでいます。今は子どもたちを教えていますが、ほんとうはもっと年上の方、たとえばおじいちゃんやおばあちゃんにダンスを教えたいな、と思ったりもします。音楽と一緒に身体を動かすことの素晴らしさを多くの人に知ってほしいという気持ちがあるんです。今後はそんなアプローチができるような活動もしていけたらと思っています。
最後にシュタイナー教育で得たと思うものについて教えてください。
自分とはちがう、その人その人を認められることでしょうか。よく「なんでそんなに優しいの?」と聞かれるのですが、優しくしているつもりはなくて、ただその人がその人であることを認めているだけだと思うんです。わたし自身、自分が持っている性格や性質、個性を先生方に否定されたような経験って一度もないな、と思います。そんな、人それぞれの多様性を認められる力をもらったのかな、と思っています。
ご自身の経験してきたこと、一つひとつが今に繋がり、表現者として活躍している樹さん。樹さんのダンスは11月に開催される藤野まるまるマルシェでもご覧いただけます。みなさん、ぜひ観にきてくださいね。
ライター:中村暁野