2020.12.09
冬の祝祭 -アドヴェントの始まりに-
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.95 2020.12.9
藤野駅から吉野校舎へ歩いていく途中、道がゆっくりと下って一気に視界が開け、空が大きく見える場所があります。授業準備のために早朝の電車に乗った11月のある朝のこと、ちょうど日の出の頃にこの場所を通りかかりました。
空の上方から大部分は、深いウルトラマリンブルーで占められ、下になるにしたがって透明感を増しています。下からは日の出の予感のようなカーマインレッドを包むオレンジが立ち昇ってきていました。それはまるでマリアが赤い衣の上に青いマントをまとっているようでした。それは、またこの季節が巡ってきたことを告げていました。
季節の移り変わりは、地球の呼吸です。夏の間、地球は大きく息を吐き、再び息を吸い込むようにその力を内に貯めて冬となります。
日ごとに、日の出の時間が遅くなり、夕方も早くから暗くなり始めました。子どもたちも
外で遊ぶ時間が限られ、秋の深まりと共にお家の中で過ごす時間が増えてくることでしょう。夏の強い光が熱となって実を熟させる秋のミヒャエルの時が過ぎ、季節は冬至へと向かっていきます。冬至は、太陽が最も斜めに照らす日であり、昼間が最も短いため太陽の光も弱くなります。そうして、冬至からまた少しずつ日が長くなり光と熱が再び増してくるので、冬至は太陽の復活を意味し、未来への希望をつなぐ日とされてきました。
☆クリスマスをドイツ語では「Weihnachten(ヴァイナハテン)」といいます。Weiheは「神聖であること」、Nachtは夜「神聖な夜」と表現しますが、フランス語では「Noël(ノエル)」、ギリシャ語の(new、新しい)と(sun、太陽)の合成語で「新しい太陽」
を意味しています。
このようにして太陽の復活をキリストの誕生として、クリスマス(キリストのミサの意)が祝われるようになりました。
クリスマスまでの4週間を『アドヴェント』として、喜びの訪れを待つ時として過ごします。アドヴェントは、一つの「成就」に向け、意味のある行為と共に過ごすプロセス(経過)です。学園では、1年生の「アドヴェントの庭」から始まり、「聖ニコラウス」*などの行事や毎週いくつかの学年が共に集い、鉱物、植物、動物、そして人間のお話を聞く「アドヴェントの集い」を通して子どもたちのアドヴェントの時を共に歩み支えていきます。
アドヴェントへの準備
11月に入るとモミの枝で作るアドヴェントクランツやアドヴェントの庭のためのリンゴろうそくのろうそくづくりが子どもたちや保護者によって行われます。
今年も7年生が園芸の授業で山に入り、モミの枝を切り出してアドヴェントクランツを制作しました。特に今年の7年生は、よい枝を求めてモミの木の高いところまで登っていたそうです。また史上初、担任もモミの木に登るという新たな出来事もあったようです。7年生は、モミの枝のチクチクする尖った葉に苦心しながら、自分のためではなく皆のために取り組み、素敵なアドヴェントクランツができあがりました。
アドヴェントの庭(アドヴェントガーデン)
毎年、第一アドヴェントの前日の土曜日、1年生の子どもたちは保護者と共に午後の遅い時間に登校します。学校中の電気による光は消され、ランタンに照らされた道を新校舎のオイリュトミーホールまで歩いてきます。
ホールには、床いっぱいにモミの枝で渦巻きが描かれています。保護者は息をひそめて、中心に置かれた一本のろうそくの光に照らし出される渦巻きを見つめながら、その時を待ちます。静けさの中、担任の先生に導かれた1年生がホールに入ってきます。子どもたちは、一人ずつリンゴろうそくを手に、ゆっくりと中心のろうそくまで歩みを進め、手に持ったリンゴろうそくに火を灯します。その火が消えないように注意深く歩むその足元は、ゆっくりそっと歩く子もあれば、緊張からかタタタと早足になる子もあり、一人一人の子どもの在り様が良く見えます。 子どもたちは、渦巻きの間に置かれた星の上に跪いてそっとリンゴろうそくを置いていきます。すると、闇に覆われていたホールが次第に明るくなっていきます。ホール全体の空間が光で満たされる体験は、クリスマスの時を経て再び光が闇に勝利する予感を感じることができます。
*「聖ニコラウス」
4世紀に実在していたミラの大主教ニコラウスのことです。聖人伝で語られるニコラウスは愛情深く善意に満ちた献身的な人で、多くの貧しい人を助けたという伝説が語り継がれています。サンタクロースの原型になっている人ですが、本来は大主教として白い衣に金のベルト、青い星のついたマントをまとって司教冠をかぶっています。
ライター/教員 大嶋まり