2023.01.04
11年生の福祉実習 2022
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.148 2023.1.4
16歳から17歳の頃、皆さんはどんな事に興味を持ち、何を考え、行ってきたでしょうか。私自身の高校生活を振り返ると、学園祭や修学旅行、テスト勉強に深夜ラジオなどが思い出されます。まだ自分が何者かもわからず、ただ自分を中心に世界が回っていると思っていた頃ではないでしょうか。
高等部では9年生から11年生まで、毎年実習を行います。この3年間の実習のプロセスは、生徒たちが少しずつ世界を広げ、社会に向かって自分たちの目と意識を開いていくためです。9年生は2週間程度の「農業実習」10年生は「職業実習」として製造業や職人さんのところに1週間、そして11年生になると3週間の「福祉実習」に行きます。1~2日の見学や体験ではなく、3週間の長い期間を理解をもって生徒を受け入れてくださる施設や事業所のご協力があってこそ可能になります。
福祉実習では、老人介護施設、障がい者施設、乳幼児施設などで日常にはない状況や場面と出会い、自分の利益ではなく社会の一員として、共に生きる人たちと向き合い、創造力と責任感を持ち、状況に合った適切な行為を行うことを経験し、学んで欲しいと考えています。
今年も11年生は、障がいのある方々がパンや織物を制作している施設や障がいのある子どもたちの施設、療育園や保育園で実習をさせていただきました。遠くは北海道や長野に、泊りがけで行く生徒たちもいました。
実習中に各施設を訪問して、生徒たちと話すと必ず出てきたことは「初めは緊張したけれど、慣れて楽しくなりました」という言葉でした。家を離れた生徒たちの中には、最初は緊張で食事ものどを通らなかった生徒もいましたが、若者たちの順応性の高さに驚かされました。
保育園では、背の高い11年生が、2歳児に合わせて体を丸めて小さくなって話しかけていました。また別の保育園での実習生は、小さな子どもたちと過ごすことが楽しくなり、最初は長いと思っていた実習がとても短く感じられ、自分の将来も考えるようになりました。
障がいのある方たちが制作をしている施設では、学校では見たことのないような柔らかい表情で、丁寧に話しかける姿が見られました。急に大きな声をあげたり、髪を引っ張られたり、人と人との距離感が近かったりする日常にはない状況に3週間かけて少しずつ慣れ、接している一人ひとりの方や子どもたちの特性を知ることができたようです。相手のことを知ることで、初めに感じた恐れや不安が消えてゆき、緊張感は保ちつつもできるだけ自然に接することができてきたようです。
実習の振り返りの中で、障がいのある子どもたちと接した生徒は「自分がこうしたいではなく、子どもがどうしたいかを考えるようになった。基準は自分にあるのではなく、子どもたち自身にある」という、とても大切なことに気づくことができました。この気づきは、他の経験では、決して得られなかったことでしょう。
また、障がいのある方々の施設で一緒に過ごした生徒は「普通の人が特別なものを持っていることで障がいとしているが、内にあるものをうまく表現できないだけ」「障がいとなっている部分と全く普通の部分があり、障がいだけが目につく。しばらく一緒にいると障がいに気づかなくなる」と、繊細に感じ取り考えた生徒もいました。
「社会における普通や当然、常識と言われていることについて、それはなぜなのかを問い直したい」と考える生徒もいました。
このような気づきは、どんなに教師が頑張っても日々の授業や学校生活の中だけでは得ることができない気づきです。実習から帰ってきた生徒たちは、顔立ちや立つ姿勢にも変化が見られるほど、物事に対しての意識にも変化が見られ12年生に向けての準備ができたようです。
ライター/教員 大嶋まり