学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2023.08.16

卒業生

人を受け入れる力、自分を信じられる力

卒業生コラム 第20期生 石橋初季さん(後編)

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.164 2023.8.16

第20期卒業生の石橋初季さんは、この春から愛媛の病院に助産師として勤務されています。「助産師としてお産に携わりたい」という夢への第一歩を踏み出した初季さんにシュタイナー学園で過ごした子ども時代から現在までのお話をお聞きしました。

前編はこちら


10年生での留学を経て、助産師になるための勉強がしたい、と大学進学に向けての勉強もはじめたのですね。
 
11年生の頃から大学受験に向けた勉強を学園の学びと両立していました。12年生は卒業演劇、卒業プロジェクト、卒業オイリュトミーと3つの集大成があるのですが、わたしは特に卒業プロジェクトに100%の力を注ぎ込もう、と決めていました。アメリカに留学した時に驚いたことのひとつが、養子を迎える家庭が当たり前にあるということでした。「うちは血は繋がっていないからね」と話す姿に血が繋がっていなくても家族なんだ、人は体験や苦難を共に越えて「家族」になっていくんだ、と思いました。それから孤児という課題に関心を持っていたんです。貧しさという課題にも関心があり、そのふたつを突き詰めたくて、卒プロではインドの孤児院を訪ねたいと思いました。
 
高校生がひとりインドの孤児院を訪ねるというのは本当に大変なことだと思います。
 
たくさんの人に話を聞かせてもらい、繋いでいただき、ビハール州という一番貧しい地域の孤児院に1週間行くことができました。学園でも今までにないことで両親も交えて面談を重ねました。父が「行きたいという思いを止めるのではなく、大人のわたしたちはどうやったら安全に帰ってこられるのかを考えたい」と言ってくれたこともあり、向かうことができました。孤児院には小学生から高校生くらいの子がいて、本当に壮絶な生い立ちの子どもたちもいました。貧しい地域ではお金を寄付しても麻薬を買ってしまったり、観光客にお金をもらうために腕を落とす人もいるという現実を目の当たりにし何が正しいのか混乱しました。孤児や貧しい人を「助ける」という上から目線の考えに違和感を感じ、貧しさという課題に国を越えて協力をしたいけれど、人として対等でいたい。win-winでいたいと強く思い、卒業プロジェクトでは「友達が困っていたら助けたい、そういう気持ちで国際協力をしたい」という答えを自分の中で出しました。
 
卒業プロジェクトを終え、卒業後、助産師コースのある看護大学に進まれたのですよね
 
大学は夢に向かう仲間が切磋琢磨する場所だと思っていたので、入ってみるとギャップに戸惑いました。なんとなく学校に来ているような空気やレジュメを配られテストに出るところにマーカーを引く授業もつまらないと感じてしまい、学校外で企業のインターン活動をすることにエネルギーを注ぐ予想外の展開になりました。ですがそのインターン期間は自分を見つめる時間になりました。自分が感じたことを言葉にできることや、人の注意を前向きに捉えられること、人の意見も受け入れられること。それまで当たり前だと思っていたことが自分の中に育ったものなんだ、と初めて捉えることができ、ひとつの自信にもなりました。
 
ンターン活動の後、産師の資格をとり、この春から愛媛の病院に就職されたのですね
 
助産師として勤め出して1年目で内科など産科以外の科をローテーションして診ています。数ヶ月したら産科に配属される可能性があるので、頑張りたいです。いずれ助産院で働きたい、助産院を作りたい、という夢があります。お産は赤ちゃんとお母さんがリラックスしていられる環境が大切です。リラックスして迎えた満足できる出産はその後の育児のひとつの自信になるのではないかとも思います。病院でも助産院でも、お母さんと赤ちゃんが豊かなお産をする手助けがしていければ、と思っています。
 
最後にシュタイナー教育で得たと思うものを教えてください。
 
その輪の中にいた時は当たり前に思っていたことですが、自分とはちがう人を受け入れる力。同時に自分を信じられる力。そのふたつを一緒に持って、自分を生きる力を得られたと思っています。



初季さんのまっすぐな一言ひとことが胸に響くお話でした。
たくさんの命に携わっていく初季さんのこれからを心から応援したいと思います。

ライター/保護者 中村暁野