2023.08.30
美術史 -序章- 「美について考える」
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.165 2023.8.30
「あなたの感じる“美しいもの”や“美しいこと”とはどんなことですか?」
という問いから始まる美術史は、9年生から11年生において美術史、そして12年生では建築史を『美学』の観点をもって取り組みます。生徒たちの発言には、海から昇る朝日、雪の輝き、水の流れなどの自然や音楽などが多いのですが、まれに方程式や建築物も出てきます。中でも、意外だと思ったのは「廃墟」という答えでした。理由を聞いてみると、廃墟には、そこで営まれた人間の生活が感じられるということでした。生徒たちの感性の豊かさを感じた一瞬でした。
皆さんが感じる「美しいもの」や「美しいこと」とはどんなことでしょうか。皆さんから出てくる答えは、その経験や感性によって一人ひとり異なり、きっと十人十色となるでしょう。しかし、人間の歴史を振り返ってみると、個々の感性を超えた普遍的な「美」を見出すことができるのです。
「美」について考え始めたのは古代ギリシア時代です。ソクラテスは「美学」という言葉ができる以前に美学の本質を捉えようとし、次のような言葉で表現しています。
「美は、多くのものに固有の属性ではない。なるほど人、馬、衣服、乙女、あるいは竪琴は美しいものであろう。しかし、これらすべての上には美、それ自体がある」〔「大ヒッピアス」プラトンの対話篇の1つより〕
ソクラテスの弟子であるプラトンは、美学を体系づけ、あらゆる美の根源には本源的な「美」が存在し、事物を「美」たらしめるのであると考えました。その「美」たらしめるものとは、調和と尺度であるとしました。また、プラトンの弟子でありアレクサンドロス大王の師であるアリストテレスは「美は秩序と大きさの中に存在する」と述べています。
このように、古代ギリシア時代には「美」をめぐり、目に見えるものではないところにその根源を求め、またその「美」を推し量るための尺度や秩序を見出そうとしていました。
私たちは、物事を捉える時に対象となるものと向き合うと、まず感覚の領域においてその対象を捉えようとします。視覚、平衡感覚、嗅覚、触覚、味覚などです。多くの場合は、視覚による情報の占める部分が多いのではないでしょうか。その感覚を通して得た情報をもとに、自分のこれまでの経験や知識が蓄積された記憶の引き出しの中から似ているものや関連するものを探し出し、その対象となるものと比較します。そこから「この対象は〇〇である」という判断を下します。通常、対象を知覚してから判断に至るまでは瞬時に行われ、そのプロセスが意識に表面化してくることはあまりありません。
高等部の美術史では「美しい」という感覚を感覚だけに留めず、歴史の中で人間はいかに芸術的な作品を生み出したのか、その背景にはどのような人間の生活や考えがあったのかに注目します。そして、彫刻や絵画、建築の中に「美しさ」を見出すことのできる人間の意識の変化を捉えていきます。
初等部では、世界の美しさや不思議さを目にして、動物はどのように暮らし、植物は何によって生かされ、鉱物は私たちに何を与えるのか、そして古代からの神話や伝説より人間の姿を学びます。
6~8年生になると、世界や地球、人間、歴史について学び、そこにある秩序とその背景と出会うことになります。物事を関係づけ因果関係を学んでいきます。
高等部では、目の前にある現象を捉え、その現象を克明に観察し、その背景にある物事を探り、これまでの学びを土台に考察し、自らの考えを構築していきます。古代ギリシア時代の彫刻に表された、自然現象や人々の精神的な活動のカオスに秩序をもたらそうとした人間の意識は、高等部の生徒の内面的な欲求と重なる部分があります。生徒たちの成長を支え、「自己」を構築していく時のひと匙のエッセンスとなると考えています。
ライター/教員 大嶋まり