2023.09.27
みんなで手をつなぐ学校 〜公立校教員からシュタイナー学園へやって来て〜
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.167 2023.9.27
シュタイナー学校の教員への道はとても多様です。様々な背景を持つ教員が集うなか、今回は公立校の教員生活を経てシュタイナー学園で手の仕事を教えている岩本奏先生にお話を伺いました。
私がシュタイナー教育と出会ったのは、公立の中学・高校で10年以上家庭科を教えてからです。担任も経験しましたが、仕事と子育ての両立に難しさを感じ、2人目の子どもが生まれたのちに退職を決めました。けれど上の子が幼稚園に通うようになって教育の場を客観的に見た時、やはり自分はそこが好きだと思いました。教えた子どもたちが成人式を迎えて再会した時など、子どもの育つ力に感動し、教育の場に戻りたい気持ちが生まれました。そんな時に友人が教えてくれたのが、シュタイナー学園の手の仕事の教員募集でした。
応募の条件は満たしていましたが、シュタイナー教育は本で読んだぐらいでまだまだ未知。それでも学園を見学しに来たとき、なんだかこの学校にいる自分が想像でき、思い切って応募しました。ちょうど上の子が小学校に上がる年で、いろいろなタイミングが重なったと思います。結果的にわが子と一緒に学園に来ることになりました。
最初は驚くことがたくさんありました。まず、学校にチャイムがない。時間を知らせるのは先生の鳴らすベルの音です。大きな音や声を出さなくても子どもたちは聴いている。校内放送もなく聞こえるのは鳥の声。学校で聞こえる音が公立校と大きく違いました。十何色もあるカラフルなチョークにもびっくりし、先輩の先生に「何色を使えばいいのですか?」と聞いてしまいました。そう思うと公立校は学校に色味が少なく、いろいろなものがまっ直ぐです。シュタイナー学校では様々な色が使われ、道具類にもふわりと布がかけられていて、そうしたことも新鮮でした。
授業の終わりに子どもたちと握手して挨拶をするのも初めてでしたが、子ども一人ひとりがここにいること、出会えたことに感謝の思いがわき、毎回心にしみいります。公立校では子どもと教師の間には常に教科書がありました。ミシンの使い方も、自分の手元をスクリーンに映してそれを見ながら説明したりする。シュタイナー学園では、先生と子どもの間に目に見えるものは何もありません。けれど、目には見えない何かが流れているのです。
はじめは、シュタイナー教育をまだ勉強中の自分が学園で教えていいのだろうか、と葛藤することもありましたが、先輩の先生からは「自分も子ども達と共に成長してきた」と声をかけてもらいました。子どもからは本当にいろいろなことを教えてもらいます。何かの仕事に向かう時の何気ない表情からも、この学園の子どもたちは自分の手を信じている、自分の力を信じていると感じます。だからうまくいかなかった時も、じゃあ次はこうしよう、と前を向ける。ここでの学びは、習ったことを持ち帰るのではなく、学んだこととしっかり手をつないで、そうしてその子自身の世界が少しずつ広がっていくことのように思えます。
先日、シュタイナー教育に関心を持つ公立校の教員や学生、これから教育に携わろうとする方向けの出張講座で体験授業を担当しました。熱心に参加してくださる姿に、こちらがパワーをいただきました。公立校時代もたくさんの素晴らしい先生と出会いましたが、子どもへと向かう気持ちは共通だと思います。シュタイナー教育に興味を持ってくださった方には、次はぜひ学園に足を運んでいただきたいと思います。先生と子どもと親がみんなで手をつないでいるような、目に見えないけれどこの学校を作りあげている何かを、感じてもらえるのではないでしょうか。
お話/教員 岩本 奏