学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2024.09.04

教育

「手の仕事」から見える広い世界

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.191 2024.9.4

「なぜ靴などの製品に牛革が使われるのでしょうか?」

7月中旬、7年生の「手の仕事」では特別授業が行われました。
講師を務めてくださったのは、学園の保護者でもある市原 亮さんです。
市原さんは、某有名メーカーの元靴職人であり、現在は藤野で農業を営みながら、地域で獲れた鹿や猪の革製品作り、民泊事業をされています。

牛革が使われる理由、みなさんはわかりますか?

7年生の子どもたちは、じっと考えながら黙っています。
なかなか声が上がらなかったので、「大きいから」と私が答えました。 
すると市原さんは、「他にも大きな動物いるよね」。
「象とか?」7年生の子どもが答えました。
「そうだね。象の革で靴作れるかな?」と市原さん。
「え? 無理でしょう」と7年生。 
「やわらかいから?」と他の先生も答えました。
このような様子で、授業は始まっていきました。

そして、牛革が使われる理由の答えは「食べるから」でした。 
牛革は「革」として育てているのではなく、食用として育て、残った「皮」で製品を作っているからだそうです。この「革」と「皮」の違いの話から「鞣(なめ)す」話など、市原さんは多岐にわたって多くのことを教えてくださいました。鞣すとは、革を柔らかくするということ。クロムという薬剤での鞣し方や、イヌイットやエスキモーと呼ばれる人達は噛んで柔らかくしていたこと、“白鞣し”という関西地方で行われている技法の話も伺いました。

また、その他にも靴作りの話など、実際にいろいろなタイプの靴の見本や革を見せてもらいながら授業は進みました。
この靴の見本の中には、なんと“わらぞうり”もありました。しかも、土踏まずまでしかない“足半(あしなか)ぞうり”です。市原さんは、これで畑仕事をしてアーシング(靴下や靴を脱いで素足で直接大地に触れる方法)されているそうです。子どもたちは、実際にわらじや様々な靴を履いて、教室を歩き市原さんに質問をしていました。

シュタイナー教育の「手の仕事」は、子どもたちの発達段階に合わせてカリキュラムが作られています。学年ごとにテーマがあり、そのテーマに合わせた道具や素材を用いて、編み物、縫い物、刺繍、洋裁などを行っています。

自分の足で大地の上に立てる、つまり自立し始めた7年生は、その足で一歩ずつ世界へと歩み出すための「靴」を作ります。
1学期は、牛革でモカシンシューズを作りました。牛革という新しい素材に触れることは、「なんだろう?」と好奇心をくすぐり、思春期の重たくなってくる体に活力をもたらします。また、革包丁で革を切る作業は、少し力がいります。切り間違えてしまうと最初からやり直しになるので、集中力が必要です。
さらに、穴をあけて、穴と穴を合わせて紐を通しながら靴の形に成型していくため、靴の形をイメージしながら作る想像力と紐を引っ張る力加減の両方が要求されます。

今回の特別授業は、市原さんが快く依頼を引き受けてくださり、実現しました。市原さんの特別授業を受けた子どもたちは、靴や革の知識だけでなく、そこから見える広い世界を知り、より広い視野を持つことができたのではないでしょうか。

そして、内面に深い学びを培った子どもたちが、一歩ずつ前に進むための力になればと思っています。

ライター/「手の仕事」教員 パラジャパティ佑奈