2024.11.13
感覚を目覚めさせ、自分を形づくっていく 〜青山学院大学出張講座より〜
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.196 2024.11.13
秋の出張講座では、シュタイナー学園で美術・工芸を担当する大嶋まり先生が、「形づくる」という体験を通して、子どもの成長に沿ったシュタイナー教育の観点をお話しされました。
まず30名余りの受講者全員で輪になって立ち、一人ずつ手を叩いて隣の人にその音を伝えるというウォーミングアップから。テンポを変えたり音を伝える方向を逆転させたりと変化をつけ、注意深く構えつつもハプニングがあると笑いが起き、手に赤みがさしてきました。
「手の感覚が起きてきましたか? では羊毛に触れてみましょう」。そう言って先生が、シュタイナー教育で小さな子どもの遊びによく用いる羊毛を出し、ひとりずつ手に取ります。しばらく触っていると、「雲みたい」「あたたかくなる」「安心する」などさまざまな感想が聞こえてきました。
「シュタイナー教育では、生まれてから最初の7年間は、親から受け継いだ体を自分らしくつくり変えていく時期だと考えます。この時期に触れる素材との出会いはとても大切です」
次に蜜ろう粘土が渡されました。蜜蜂の巣からとれる甘い香りの蜜ろうは、冷たい状態では固く、熱で柔らかくなります。手の中に粘土を包み、先生が語る、犬や猫や小鴨などの動物が登場するお話に耳を傾けました。聞き入るうちに粘土は柔らかくなりました。
「では、お話に出てきた動物を形にしてみてください」。しばらく手を動かしたあと、先生が羊毛との違いを尋ねました。「より細かく手を動かして集中しないといけない」「指先があたたまった」といった声が上がりました。
「指先の感覚がさらに目覚めてきますよね。感覚は少しずつ目覚めさせていくことが大切です。そして、あたたかさで形づくるということが7歳までの時期に大切にしたい感覚です」
続いて土の粘土を受け取ります。「凸凹のない球形をつくってください」と言われ、皆さん真剣に粘土に向き合います。途中、どんな感覚を使っているかを先生が問いかけました。「指先」「目で見る」といった答えが出ると、先生は「ではその感覚のひとつを閉じてみましょう」と、目を閉じて作業を続けるように促しました。作業を終えた受講者からは「片手だけを動かしていたのが、両手を使うようになった」「目を閉じたら、思ったより凸凹が残っているのがわかった」などの気づきが述べられました。
「目は錯覚しやすいのです。一方、触覚はダイレクトな感覚。小さな子はなんでも口に入れますが、人間が生まれて初めて世界に触れるときに使うのが、触覚という感覚なのです」
球が出来上がると、再び全員で輪になって立ち、粘土を右隣の人の左手に渡していきます。渡すと同時に自分も左隣から受け取ります。順々に回すうちに「綺麗」「かわいい」など楽しそうな声が聞こえます。一周して自分の球が戻ってきたところで改めて感想を尋ねられると、「温度が一つひとつ違った」「球の表情が違う」「自分のものではない、とわかった」など、少し驚いたような声が次々上がりました。
「ひとつとして同じものはなかったはずです。粘土を扱うのは5年生くらいからですが、その頃は“一人ひとり違う”ということを知る時期です。違ってもなんの不都合もない。一人ひとりは唯一無二なんだ、ということがこうした体験を通して体得されていきます」
美術や工芸の時間に触れるさまざまな素材とそこで目覚める感覚から、子どもたちはその時期の成長に必要なことを学んでいきます。
「シュタイナー教育は何かをできるようにする教育ではなく、学びとる力を育てる教育です。社会は常に変化していきます。そうしたことも自分で捉えていくことができる、そういう力を育てようとしています」
体験を終えた受講者の皆さんに、大嶋先生の言葉は実感をもって響いたのではないでしょうか。質疑では、学校や生徒の様子、授業について具体的な質問も寄せられ、より深く学びたい方へ教員養成講座もご紹介しました。変化する教育環境の中で、何を大切にするかを模索し、積極的に学ぶ皆さんの姿が印象的な講座でした。
※シュタイナー学園教員養成講座については下記をご覧ください。
第2期シュタイナー学園教員養成講座 説明会