2021.02.17
シュタイナー学校初中等部(1-8年)の理科の授業 第4回 高学年の理科〜自然との関わりから、自らの「道」を切り開く準備をはじめる 〜
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.100 2021.2.17
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第4回は、高学年6〜8年生(中学2年生)の理科についての話です。
この時期の子どもたちは、大きく身体が変化し始めるだけでなく、心のなかも大きく変わり始めます。身体を重く感じ、ぎこちなくだらだらとした動きが見られます。性的な器官が発達しはじめ、自分の身体の変化にとまどいを感じたりもします。
自分を中心にして独善的に世界を見たりもします。それは「知性」が目覚め始めていることの証拠です。「疑問」が心のなかから自然と湧き出てきます。それが、「大人への反抗」という形で出ることもありますし、起こっていることの原因を知りたいという気持ちが生まれたりもします。「真実への欲求」が本格的に目覚めるのは14歳以降ですが、その前兆が「反抗」や「屁理屈」という形で出てくるのが12歳ごろと言えます。自分のなかから出てくる「疑問」を中心にして、世界をつかんでいきたいという深い欲求が子どものなかに生まれているのです。
(1)目に見えない世界、生命のない自然との出会い(6年物理学)
「地」「水」「火」「風」の力を受け、森や大地、空で生きている動物や植物たち。これら「目に見える生物たち」が、4~5年生の理科の中心的な学びでした。少しずつ「考える力(思考の力)」が目覚め始める6年生になると、「直接は目に見えない世界」のことを学び始めることができます。
「音」「光」「熱」「磁力」「電気」……生物の世界とは違い、これらの世界の力は直接目には見えませんが、世界を動かす大きな力を持っています。見えない世界のことを考えるにはある程度の「知性=思考の力」が必要です。まだそのような知性が目覚めていない子どももいますし、逆に目覚めすぎて、溢れる疑問に振り回されている子どももいます。この目には直接見えない「力」をどう扱うかを子どもたちに伝えていくのがとても大切です。
12年ほどこの世界で生きてきた子どもたちは、自分なりの「世界の見方」を持っています。本質をつく観点もあれば、偏見ある観点もあります。教師は、まず目の前で起こっている「現象」をそのまま「観察」し、言葉や図・絵でできるだけ正確に「記録」することを子どもに挑戦させます。
この作業を丁寧に行うと、いろいろな「疑問」が子どもから生まれ始めます。
「世界が明るいのはなぜなのか? 太陽はなぜ東の空からのぼり、西に沈むのか?」
「音や色が世界にあるのはなぜなのか?」
「冬に服を脱ぐとき、パチパチと音がするのはなぜか? あれは何なのか?」
「冬、暖房を入れても、足が冷えるのはなぜか?」
「水を熱すると出てくる泡の正体は何なのか?」
そして、クラスメイトみんなで集めた「記録」を元に、「思考」を働かせて、現象の裏に潜む「法則」を導き出していくのです。このプロセスを通して、自分のなかの「偏見」が崩れて、自分のなかの観点が更新されます。アルキメデスが浮力の原理を思いついたとき、「ユリイカ!(発見したぞ!)」と声を挙げたと言われていますが、まさにこの体験を、理科の時間に子どもたちと一緒に繰り返していくのです。子どもたちはこの体験に深い喜びを感じています。自分が更新され、成長し、真実に近づいていく体験がこの年代の子どもたちには必要だと私たち教師は考えています。
(2)上級学年の理科
他にも6年生は、天文学や地質学など、知的な想像力が必要な学びを行うことができます。7年生になると「化学」の授業が始まります。化学は「燃やす、溶かす、混ぜる」など、自分から世界に働きかけることで、世界の本質を知っていく学びです。自らの身体の変化が顕著になる8年生になると、「変化している自分に起きている化学変化」という観点で人間の成長を見ていく「栄養学」が始まったり、物理法則と化学法則で満たされた「骨学・筋肉学」を学び、人間の身体についての理解を深めていったりもします。
字数の関係で、詳細を語ることはできませんでしたが、シュタイナー教育では、子どもの心と身体の成長に合うようなカリキュラムが「理科」という教科でも組まれていることが感じていただけたと思います。子どもたちは自分自身に起きている変化を、学びを通してゆっくりと受け入れていくことができるのです。高等部になると、より専門的に、広い世界を、自分自身(人間の存在そのもの)と対話しながら学んでいくことになります。
(3)最後に
4回シリーズで、シュタイナー学園の「理科」についてお伝えしてきました。
シュタイナー教育の講座を開くと必ず、「卒業後、子どもは一般の世界に順応することができないのではないでしょうか?」という質問が挙がります。確かに、タブレット教科書など、最新の技術が取り入れられた教育ではありませんし、受験に対応したカリキュラムでないことは確かです。しかし、子どもたちは、「世界のつながりの中に自分がいる」(第1・2回「縁」を生きる世界)ということを知っています。そして「世界と温かくつながる方法」(第3回「愛」を持つ世界)も知っています。
その土台があって、「世界に必要なことが何かを考える力」が高学年に育まれます。自らの「道」を切り拓き、人類が歩んでいく「道」を、それぞれの個性を活かして探究・模索していくことを心に抱いて卒業していく子どもは、「一般の世界に順応」するというよりは、「世界を温めて活発にする」存在として世に出ていくことでしょう。
この4回の連載だけでは、広大な理科の分野を語りきることはできませんでしたが、今後は様々な機会をつくって、シュタイナー学園の理科の世界についてお伝えしていければよいなと思っております。どこかでまたお目にかかれるのを楽しみにしています。
ライター/教員 小柳平太