2021.05.12
中等部の校外学習
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.106 2021.5.12
学園では、各クラスの学びのテーマに応じて、様々な校外学習があります。今回は中等部の校外学習に焦点を絞って話を進めていきます。
■7年生「見たい、知りたい、わかりたい」
7年生の歴史のテーマのひとつに、ルネッサンスの時代があります。コロンブスや、ガリレオ、レオナルド・ダ・ヴィンチらの人物伝を通して、その時代の人々の意識の様子を知る機会となります。例えば大航海に出かけたコロンブスは、それまで教会で言われていた世界観に疑いを持ち、世界の様子を自分の目で確かめたいという衝動に駆られ、そのために危険を冒してでも自ら未知の世界に出かけていきました。作家の塩野七生さんは著書『ルネサンスとは何であったのか』のなかで、ルネッサンスの時代の特徴を「見たい、知りたい、わかりたいという欲望の爆発」と述べています。
この表現、まさに7年生(中学1年生)の子どもたちの内面とよく重なっていると思います。個の意識が強まってくる13~14歳、彼らは思考の力、論理的に考える力が目覚めていきます。それと共にそれまで素直に先生や親に従っていた子でも、「それは違うのではないか」「自分はこう考える」「なんでも大人に従うのはおかしい」という気持ちが芽生えてきます。自立へ向かう健全な道のりです。
その年頃の彼らに意味のある体験、活動は何だろう、と20年前に学園が初めての7年生をスタートしたとき、担任だった私は考えました。「そうだ、自分の力で責任をもって船で航海するかの如く、カヌーに乗せてみよう。転覆しても自分で起き上がらねばならないのだから」。かくして、教員たちで奥多摩にあるカヌースクールに研修に出かけました。そして20年後、再び7年生を受け持つ私は、今回本栖湖で富士山の絶景を見ながらのカヌー合宿を予定していましたが、緊急事態宣言の影響でやむなく延期しました。
■8年生「飛べ、鳥のように」
さて、8年生の学び中で、子どもたちの記憶にもっともよく残っている校外学習の一つに「パラグライダー体験」があります。これは、物理で学ぶ「気圧」の、学びの一環なのです。飛行機などに働く「揚力(物体を持ちあげ浮かす力)」は気圧に関係した現象です。
空気は全方向に物を押す力があります。その空気が風の状態になって飛行機の翼にぶつかり、翼の下と翼の上に分かれて高速で移動します。ところが、翼の形状から、翼の下を流れる風の方が、翼の上の方を流れる風よりも、ゆっくりになるため、相対的に翼の下の方が、上よりも空気圧が強くなり、その結果翼を持ちあげます。
同じ原理がパラグライダーの翼にも働くため、その揚力を実際に体感できます。うまくいけば100メートル以上パラグライダーで滑空できます。それはまるで鳥になったかのような気持ち良さです。子どもたちは、一生その感動を忘れないでしょう。その感動は「気圧」が作ったものなのです。
そのほか、クラス、学年によっては雲取山登山や富士山でのビバーク体験、奥多摩で沢登りをしたり、数日間サバイバルキャンプを行ったりと、多様な校外学習が組まれます。その目的はこの年齢にふさわしい、自主性、自立性を養い、仲間と協力することにあります。楽しいだけではなく、苦労を伴うこれらの学習に取り組む生徒たちの姿は、時にコロンブスの大航海に乗り組んだ船員たちのようにも見えます。苦難を乗り越えたときに見える景色は、いつの時代にも達成感と自信、そして「生きる力」を人々にもたらしてくれるように思います。
ライター/教員 増渕 智