学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2017.09.25

暮らし

藤野のシュタイナー的暮らしその1

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.11  2017.09.25

娘がシュタイナー学園に転入してから、約一年が経ちました。最初、こちらに来て感じたことは、周りの方がとても親切だということ。私は車に乗れないのですが、歩いたりバス停で待っていると、どなたかが車をとめて乗せてくださることが多いのです。

 また、四季折々の景色が素晴らしく、秋にはドングリや栗などの木の実拾いに娘は大忙し。初めて雪が降った日、小さなカマクラを作ったり、そり遊びをしたり、雪合戦をしたり、一日中雪遊びを楽しみました。冬が終わると、一気に花々が咲き乱れます。人生で辛い冬があったとしても、必ず春が来るんだなと思えるほどの美しさ。夏になると、虫嫌いだった娘がカタツムリやバッタを手づかみしたり、セミの抜け殻をお土産に持ち帰ったり、山の子供の一員となりました。

 そうして四季を巡り、気がついたら娘がとてもたくましくなっていたのです。引っ込み思案で内弁慶だった娘は、友達と思いっきり遊べるようになりました。石垣があったら登ってみる、棒があったらぶら下がってみる。広い場所があれば全速力で走り、犬に追いかけられても負けない速さ。私のそばから離れなかった娘に、生まれて初めて「危ないからやめなさい」という言葉が思わず出てしまったほどです。

 この一年、ほとんどを藤野周辺で過ごしました。学園で毎日芸術に触れている娘ですが、毎日の暮らしにも芸術があります。藤野では大きなイベントから小さな集まりまで、毎週のようにお祭りがあるのです。藤野には、いろいろな才能のある方がたくさん。自然の達人、音楽、演劇、陶芸、木工、食、遊び…。お金で買うだけではない、本物の芸術が、ここにはあります。娘にとっても、歩ける範囲で過ごせることはとても有意義なことと思います。

 そして、小さく暮らしても、とても豊かな生活ができるのです。無農薬野菜が買えるビオ市が月2回あり、スーパーでは毎日ビオ野菜が売られ、町内に点在する直売所でも格安なお野菜が手に入ります。とれたてのお野菜だから、手をかけずにシンプルに調理するだけで豊かな食卓になるのです。また、藤野には地域通貨が数種類あり、それは貨幣としてではなく、助け合いやお楽しみという形で流通しています。自分には必要ないものが、価値があると思う人のところに縁が繋がる、人に優しい通貨です。

 最近、「随分前からここに住んでいるみたいにすっかり慣れましたね」という言葉をいただくようになりましたが、まだ旅感覚も残っています。藤野は生活に根ざした暮らしができるだけでなく、楽しいことがいっぱいで、毎日遊びに来ているような気分なのです。私も藤野に来て自分らしさが取り戻せましたし、何より娘がのびのびとしている姿を見ていると、ここに来て本当に良かったと思います。美味しい空気が一番のご馳走です。

 シュタイナー教育はメディアを避ける、キャラクター禁止など、負のイメージを持っている方もいるかもしれません。ここ藤野にいると、大人も自然や芸術の体験、周りの人との交流が楽しくてテレビを見る暇もなく、子供も家の中で遊ぶよりも外に飛びだして思いっきり遊ぶのが大好き。体を動かして遊ぶから、夜は布団に入ると3秒で寝てしまうし、朝は明るくなると自然に目がさめる。私も以前は子供のリズムを守らなくちゃと躍起になっていましたが、今では自然が娘の体のリズムを作ってくれます。体を動かせばお腹も空き、多少食べ過ぎたり負担の大きいものを食べてもちゃんと消化できるようになって、アレルギー体質もすっかりなくなりました。

 シュタイナー教育は特殊な教育法でよくわからないとか、シュタイナー的生活ができるのかとお悩みの方もいるかもしれません。娘は普通の幼稚園を卒業し、私は芸術的なたしなみもなく不器用で、家でいわゆるシュタイナー教育を実践できているかといえば足りないところばかり。でも、この大自然の中では、五感を使って全身を動かし、子供の心や体を育んでいくことができます。周りの親も、食べ物やメディアに対して同じ考えを持っているので、安心して遊びに行かせられます。子供を預かった時にはお礼にお野菜をやり取りすることもしばしばで、田舎ならではの気張らない関係が保てるのです。

 学校では、動物学という学びを始めた4年生。先日、親のクラスの会では、私も実際にイカの動きを体験し、絵を描きました。家では娘がイカを丸ごとさばき、みんなに見せたいとカラストンビの口を学校に。娘は今、思いっきり体を動かして遊び、本物に触れながら学ぶことで、生きる力を着々と身につけています。先日、4年生が作った「自然の竹の家」に子供たちと家族総勢60人が集まり、完成会を行いました。ピザやうどんを粉から手作りするのはもちろん、うどんの綿棒やピザのスコップまでお父さんの手作り。ピザ窯の火を安定させた、プロ並みの技術にも感服致しました。親たちは、皆イヤイヤ準備するのではなく、それぞれが得意分野を生かして自ら動き、不足の部分をさっとフォロー。「子供たちが楽しめるように」という親の思いに、子供たちも負けずに「やりたい」の気持ちであふれ、キラキラ輝いていました。11月18日のまるまるマルシェでは、子供たちが作った家が公開されますので、ぜひ見にいらしてくださいね。

越野美樹 (4年保護者)