2021.12.22
4年生の郷土学
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.122 2021.12.22
9歳になると、子どもたちは新しい世界に足を踏み入れます。そこでは、私はいったいだれなのかということに気づいていき、そして自分という樹で立ち始めます。それまでの小さかった芽は、大地の温かさと太陽の光に包まれ、大人に雨風から守ってもらいながら、心地よい世界に浸っていましたが、この新しい世界で、芽は伸び、若木に育った彼らは辺りが少しずつ見え始めます。
教室で学ぶ4年生の子どもたちも、少しずつ、自分の周りを意識して見始めます。自分の机の上に立って上から教室を見てみます。すると、前後ろ右左に自分とは違う人が存在していることに気がつきます。学校全体も校庭の真ん中に立って空の上からの目線で眺めてみます。次に学校の近所を自分の足で歩いてみます。道の両側にあるものを大まかな地図に描きながら。すると、「この周辺は畑が多いけど田んぼはないね」、「お店はないけど直売所はあるよ」、「川や山に囲まれている!」、「故郷のような風景だった」などなど、自分たちで自分たちの生活する場所の特徴を発見します。
こうして若木は自分の場所で背を伸ばしながら、見える範囲を広げていきます。
実際に見えるものだけではありません。若木は地中の中にも根をどんどん伸ばしていきます。
藤野は甲州古道が通っており歴史的ロマンを味わえる場所でもあります。江戸(日本橋)から八王子、小仏峠を経て、相模国の小原宿(相模湖駅周辺)、与瀬宿、吉野宿、関野宿、そして甲斐国の上野原宿へ入り、そこから信濃国の下諏訪までの街道です。4年生の子どもたちは、古道を4日間かけてそれぞれの宿場町まで歩きました。学校の最寄りの駅、藤野駅からまず八王子方面に吉野宿までの道のりです。江戸時代、旧佐野川村の養蚕農家の娘がお茶壷道中に出会いながら、甲州古道を通って絹糸を八王子まで売りに行くお話をしながら、その娘になった気分で歩いていきます。今もまだ立っている道標の昔の地名を確認しながら歩いていきます。そして「ふじや」という江戸時代の旅籠(今は資料館)で、昔の藤野の人々の生活道具や仕事道具を見、説明員の方の話を聞きながら、子どもたちの地中の根っこは過去の時代に思いを馳せ、どんどんと地下深くへと伸びていきます。
吉野宿から与瀬宿までも道標を目安に歩き、あちこちにひっそりと佇んでいる馬頭観音や道祖神、二十三夜塔(※二十三夜月を拝む民間信仰)、小さな神社などを見つけては、手を合わせて拝みます。根っこにしっかり支えられ、子どもたちの若木は葉をどんどんと茂らせ空に向かって大きく広げます。太陽の光だけではなく、神様からの光も受け取っているのかもしれません。
小原宿からは、藤野駅方面に戻りながら、相模ダムを見学し、自分という若木が育つための大事な水が、実は遠い外国の人々の苦しい労働のおかげだと知ります。
吉野宿から与瀬宿のお話にでてきた佐野川村の養蚕農家の娘さんと同じ、養蚕業も体験しました。繭から糸を取り、真綿から紡ぎ、そして藍染をしました。川の中に入り、裸足で藍染ののりを洗いながら、水の冷たさが彼らの意識をはっきりと目覚めさせ、体の中から自分の根っこの下に広がり土台となってくれている世界と歴史を感じたことでしょう。
こうして若木は天に向かって伸び、葉を広げ、過去へ根を張り、そして5年生になっていきます。今度はそこに虫たちや鳥たちがやってきて、実った実の種や花の花粉を、もっと遠くまで運んでいくでしょう。そうやって自分の足元から広がる世界のあちこちに運ばれた種から、また新しい芽を出すのです。かつて佐野川村の娘さんが運んだ絹糸を織物にする八王子の職人の仕事を、職業実習で学んだ10年生の生徒たちは、その新しい芽なのかもしれません。そしてシルクロードを通って、海の向こうへと子どもたちの世界は広がっていくのでしょう。
ライター/教員 帖佐美緒