2022.04.13
変わるものと変わらないもの
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.130 2022.4.13
この春、長男が12年の学園生活を終えました。卒業を迎え感慨もひとしお…と言いたいところですが、我が家にはまだ2人控えており、卒業式後もお弁当作りに朝夕の送迎など、やることは沢山。余韻に浸る時間はなかったというのが実感です。
とはいえ、12年間を振り返ると色々な出来事がありました。
22名でスタートしたクラスでしたが、入学翌春に東日本大震災が起こり、またさまざまな事情により一時はクラスメイトが8名まで減りました。
友人たちが離合集散する過程でさまざまな感情を味わい、学校へ行けない日々が始まりました。
学校の玄関までは行くのですが、足がすくんでしまい中に入れません。後ろを向いて涙している姿に胸が痛みました。
誰も登校していない早朝の時間帯に、父親と名倉校舎へ散歩し学校を見て帰る。
そんな日々もありました。
学校に行かない日は担任の先生が宿題を自宅まで届けてくださり、専科の先生からのメモには温かい言葉が添えられていました。
親面談を繰り返し、彼にとって何が最適かを考え話し合いながら、一時一日を祈るように過ごしていました。
そのような状況で8年劇を迎え、息子は「オズの魔法使い」のオズ役で独唱の場面をいただきました。
舞台袖からスッと立ち現れた彼の歌声と静けさは今でも鮮明に思い出されます。
何者も立ち入ることのできない彼だけの世界。美しく高貴で静かな世界。
親として彼に何ができるのだろうかと、改めて問いかけられた気がしました。
9年生になり、名倉校舎から吉野校舎へ移ると、徐々に明るさを取り戻していきました。
クラスにとどまらず縦のつながりの活動が増えたことなどが功を奏したのか、部活動に励んだり、学園祭実行委員を務めたりと学園生活を楽しんでいる様子が伺えました。
ラスト12年生は彼の成長を目の当たりにした1年間でした。
11年生の夏休みから始まった卒業演劇では演じたい役柄をとるために主張を貫く強さを出し、一方で、皆が納得する配役の決め方をクラスで考えたそうです。争うのではなく、適役を時間をかけて選ぶという方法には、彼らがこれからどのように生きていきたいかを示しているように思われました。
そして、卒業間際のオイリュトミー公演。
ひとりのクラスメイトが参加できなくなるというハプニングが起こりました。
本番前、練習をともに積んできた彼のために何かしようと、みなで輪になり各自の発表の中でその子の名前を表現することを決めたそうです。
後日、息子へ聞いてみたところ、「当たり前だろ」と応えました。
数年前の息子からは考えられなかった応対です。人に向き合い対処できるようになった姿に大きな成長を感じました。
これは大人に対しても同じで、「学園の先生は個性的、特徴的な考え方を持っている。自分を出している。色々な考え方に触れ、尖った部分にも触れられる。そのことは自分の考えを見つける足掛かりになったし、物事の捉え方が身についた」と言います。
将来は「合理的に考えることは大切だけど、感情に訴えることも必要。バランスを保って、使い分けができる人になりたい」とも言いました。
そこには”世界への信頼”とともに”自分への信頼”を手にした彼の自信が垣間見えます。
変わるものと変わらないもの。
息子が身に纏ってきた光は変わらず、成長とともに見せる姿は変わっていきました。
これから学園への入学を考えておられる皆さんや、在学中の保護者の皆さん。
学期祭や、12年卒業演劇、卒業プロジェクトの発表、卒業オイリュトミー公演は子どもたちの姿を体感できる機会です。
コロナ禍でなかなか難しい側面もありますが、ご縁がありましたら、ぜひ足をお運びください。
最後になりましたが、私たちを親に選び、その姿をもって道を示し、ひとつの光の中に多くの可能性が秘められていることを現してくれた息子に深く感謝します。
そして、この場を与えてくださった全ての存在に感謝します。
ライター/保護者 松本朋子