2018.09.04
シュタイナー学園12年間で培われるものー親の視点ー
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.42 2018.9.4
藤野のシュタイナー学園は1年生から12年生までの一貫教育。教科書もテストもない12年間を過ごした子どもたちは、どんな風に育つのだろう?どんな大人になって社会に出ていくのだろう?シュタイナー教育に出会うと、そんな想いを抱く方も多いのでは。現在20期までの卒業生たちが生まれているシュタイナー学園。そのうちのお一人、5年前に卒業したサンダース・サティアくんのお母さんのゆうさんに、親から見たシュタイナー教育の12年間をうかがいました。
やりたいことが決まった時のエネルギーがすごかった
Q:息子さんが卒業して5年経ちますが、現在はどうされていますか?
今はアメリカの大学に行っています。卒業してすぐは進路も決まっていなくてバイトを続けながらどうしようと思
っていたようで、とりあえず親戚もいるしアメリカに行ってみたら?ということで渡米しました。そしたら2ヶ月ほどで帰ってきて「アメリカの大学行きたい」と。それから書類を作るのも入学の準備も全部自分でやっていました。それを目の当たりにして、意志の強さに圧倒されましたね。シュタイナー学園の生徒は、やりたいことが決まったらそれに向かっていくエネルギーがすごいって、周りからもよくききます。
答えは一つじゃないと学んだ学園生活
Q:大学生活にシュタイナー学園で学んだことっていきているようですか?
大学に通う中で経済に興味が湧いたらしく、今夏に大手の投資銀行にインターンに行ったのですが、そのインターンの採用試験が結構大変だったと聞きました。最終の面接で出される質問が、答えのない難問。息子が聞かれたのは、「今アメリカにあるネクタイの数は何本か?」だったそうです。どうやら答えを求めているわけではなくて、その答えに至るまでの思考回路を知りたいらしい。採用が決まった時に嬉しいことを言ってくれました。「俺ね、これができたのはシュタイナー学園に通っていたおかげもあると思うんだよね。」って。この答えに至るまでにこういう考えがあるんですよ。こういう質問があっても答えは一つじゃないんですよっていうことを小さい時から授業でやってきたからだと。結果としては学園のおかげで無事に内定も貰えたようです(笑)
Q:そんな学園生活で印象に残っていることってありますか?
一番印象に残っているのは、1年生の初めての漢字エポック授業のエピソードかな。1日目、大きいエポックノートを全面青いクレヨンだけで塗って終わり。2日目は再び全面を青で塗り、中心に黄色をぽちんと描いて終了。3日目はその黄色が大きくなり、次の日は黄色が放射状になって、という風に何日かかけて一つの漢字を習っていました。最終的に「光」という漢字になるのですが、日毎に大きくなる黄色をクレヨンで塗っている時に、1人の女の子が「先生!眩しくて目が開けられません!」って。その話を聞いて心を動かされました。頭で理解するより、そうやって身をもって体感することから覚えていく。驚きと感動をもって行われる授業とはこういうものなのか、と。
Q:高等部時代も楽しんでいたみたいですね。
親の視点からすれば、いろいろとありつつものびのびとした学園生活だったと思います。実習が多い高等部のカリュキュラムは面白いですし。11年生の福祉実習の時に、障がい者の方が通う作業所でギターを弾いてとても喜んでもらっていました。楽器を弾ける子が多いので、それぞれの施設で喜ばれるようです。また毎朝海パンと着替えを持っていくので訝しんでいたことがあったのですが、休み時間に水鉄砲で大騒ぎをしていて叱られたとか、下の娘の学年では、登校したら校庭の真ん中にテーブルが設えてあり、テーブルクロスをかけて額をかざって、優雅にナイフとフォークで朝ごはんを食べていた子がいたということも(笑)
子どもたちにこれから一生続く大きなプレゼントをあげることができた
Q:12年間の学園生活を振り返って親としてどうですか?
我が家にはさしたる財産もないので、二人の子どもたちに残してやれるものはないけれど、これから一生続く大きなプレゼントをあげることはできたなって心から思うんです。一生の土台、基盤をつくる時期に、シュタイナー教育を受けさせてやることができた。周りにいる人達のよい心と美しいものと正しい行い、よく真善美っていうけど、それに出会い、教えてもらったと思います。また唯物的ではない、世の中には目に見えないけれど恩恵を受けているものがあるのだという畏敬の念、倫理観や道徳観なども、学園の授業や季節の行事などを通して培うことができたと思っています。大事に育てていただいた先生方に対しては本当に感謝しています。
Q:進路の心配はありませんでしたか?
我が家も心がけていたことですが、学園では子どもが自分の幸せのために自分で将来を選択できる、親のほうもそれを待てる、という家庭が多かったと思います。子どもの幸せは親が決めるものではなく、子どもが本当に自分のやりたいことはなにか?お金に関係なくこれをやっていきたいなって思えること、そしてそれを成し遂げる意志を持てること、そして自己本位に終わらずに最終的に社会に還元できることが大事だと思います。シュタイナー学園の子どもたちを見ていると、画一的じゃなくて、彩りがとても豊かという感じがします。これから卒業生がどんどん散らばっていって、いろいろな分野で力を出してくれるだろうからとても楽しみですね。
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いわゆるいい大学に行くための受験勉強やテクニックの授業はほとんどないけれど、目に見えないものを感じそれを大切にできたり、自分がやりたいことを見つけて自由に生きることができる、それだけで十分だよなと、ゆうさんのお話を聞いて改めて思ったのでした。日本を離れ海の向こうで豊かな人生を力強く歩んでいるサティアくん。これからも楽しみですね。ゆうさんありがとうございました!
ライター なかむらあや