2018.10.09
喜びと自信をもたらす 高等部実習
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.45 2018.10.17
今回は、高等部の生徒たちが行っている農業実習、職業実習、福祉実習、航海実習、4つの実習についてご紹介します。
「よく働きよく学べるようにと」授かった力を、高等部の生徒はより実社会に近い場所で発揮していかなくてはなりません。そこで生徒たちは校舎を離れ、私たちの生活を支える仕事に職業として携わっている方々の下で1週間から3週間の集中した実習を行います。第一次産業の実習である9年生の農業実習では、私たちの体を育んでくれる食べ物とさらにそれを育んでくれる土を育て、第二次産業の実習である10年生の職業実習では、私たちが生活の中で使う物・お世話になっている物を作る営みに参加し、第三次産業の実習である11年生の福祉実習では、社会の中で私たちが助け合って生きていく営みに考えと力を注ぎます。
農業実習は、21期生までは熊本のバイオダイナミック農場「ぽっこわぱ」さんにお世話になっていましたが熊本地震の影響で宿舎が使えなくなってからは、東京賢治の学校が以前から実習をしている宮崎県綾町の複数の農家さん(22期生、24期生)、あるいは、北海道でバイオダイナミック農業を実践しておられる「ソフィア・ファーム」さん(23期生)にお世話になっています。どちらも、自然の力と恵みを感謝の中で受け取り、それをより豊かな形で自然にお返していこうとする農業をしている方たちです。生徒たちは実習後に口をそろえて「私たちの毎日食べている食べ物が、自然の恵みと多くの人の働きで生まれてきたものだということがよくわかりました。」と言います。職業実習でもそれは同じで、日頃何気なく使っているものが、こんなにも大勢の人の手と思いと時間を通してできあがってきているのだということを、生徒たちは体で受け取ってきます。
そんな中でも生徒たちが最も大きな成長を見せるのが福祉実習です。実習先の皆さんにも感心されるのですが、福祉の専門学校でもないのに3週間の福祉実習をカリキュラムに据えている高校は、おそらく他にはないでしょう。1週目のとまどい、2週目の手ごたえ、3週目の自覚と感謝…。生徒たちの変容を見て、3週間という時がもたらすものの大きさをいつも実感します。何より生徒たち自身が、他の人のために何かができるのだという自信を持ち、障がいのある人たちに持っていた先入観や偏見を克服していく姿が素晴らしいです。
これらの実習を受け入れてくださっている地元の工場や施設の皆さんには、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。おかげさまで、年々、地域の方との交流も深まっています。
一方、11年生で行うもう一つの実習である航海実習は「移動」に主目的があるという点で上記の実習とは趣が異なります。帆船「アミ号」とヨット「アミ号」に乗って、風と自分たちの力で、沼津港~清水港~松崎港、そして沼津港へと駿河湾を横断する三日間。世界史の大航海時代、数学の球面幾何といった座学の実践の場でもありますが、やはり力を合わせることの大切さは、他の実習と変わらない目標です。みんなで力を合わせて航路を決め、船の位置を計測し、帆を繰り出す。その力が求められると同時に、刻々と変わる風と波、海の生き物、富士山や島々の風景、寄港する港町の風情、など、さまざまな喜びにもあふれた実習です。
こうした実習を通して、高校生たちの中に、働く喜びと働ける自信が育っていると感じます。さらに、「働く」ことが本当に「傍はたを楽にする」こととなり、それが自分の喜びになることを願います。また、実習に特化するのではなく、実習・座学・学校生活の有機的な交わりを通じ、12年間を通して「よく働きよく学べる」力を育んでいきたいと考えています。
シュタイナー学園教師 栁沢 玲一郎