学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2020.06.24

教育

心と体を育む生活のリズム

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.83  2020.06.24

シュタイナー学園も6月から分散登校など様子を見ながらではありますが開校となり、毎朝、子どもたちの歌声や笛の音色、詩を唱える声が聞こえています。子どもたちの学び舎としての、学校本来の姿がようやく戻ってきました。休校の期間中、教師たちは開校に向けての準備を進めてきました。子どもたちが安全に、安心して学校の学びを再開できるよう、何をしていくことが必要で、何をやめなくてはならないのか。その中で、挨拶の仕方についても話し合われました。

朝と帰りに担任と握手をして挨拶をするのは、世界中のシュタイナー学校で見られる光景です。一人ひとりの顔が違うように、子どもたちの手も、挨拶の仕方も違います。温かな手、冷んやりした手、大きな手、小さな手、厚みのあるがっしりした手、華奢な手。全員で挨拶をするのとは別に、一日の始まりと終わりに一人ひとりとしっかりと出会う。担任は、大勢の子どもたち全員に目を配りながら、授業をし、一日を過ごします。日によっては、全員と言葉を交わせない日もあります。だからこそ、一日に2回、子どもと一対一で向き合えるその時は大切な瞬間であり、子どもにとっても、自分が先生としっかりつながっていると感じられるときなのです。握手をして挨拶をするという習慣のない日本の子どもにとっては、初めはなかなか大変なことかもしれません。恥ずかしくて、先生と目を合わせられなかったり、ささやくような声で挨拶をしたりする子もいます。けれども成長していくにつれ、目を合わせられなかった子が、しっかりと担任の目を見て挨拶をするようになり、その子の変化、成長に気づかされるのです。

新型コロナウィルス感染症を考慮し、残念ながら、握手の挨拶は当面しないことになりました。しばらくは子どもの手のぬくもりを直接感じることはできませんが、一人ひとりの目を見て挨拶をする、背中に触れるなど、子どもたちが教師との結びつきを感じとり、これまで通り安心して学校生活を送っていけるよう、個と個の挨拶のときが大切であることには変わりありません。

このように、これまでしてきたことを変えて行かざるを得ない状況の中でも、この間、生活リズムを整えることの大切さを保護者の方々に伝えています。なぜリズムを整えていくことが大切なのでしょうか。それは、整ったリズムの中で生活していくことは、心身の安定をもたらし、安心してこの世界の中で生きていくことの基盤を築いていくことにつながるからです。

私たちはいろいろなリズムの中で生きています。一日の中での目覚めと眠りのリズム。人間にはもともと体内時計が備わっており、朝、目覚め、日中は活動し、夜になると眠りに就くことは私たち本来の自然なあり方です。また、一週間、一ヵ月、一年というリズムの中でも生活しており、それは、地球、月、太陽を含めた天体、宇宙のリズムです。満月の夜に出産が増えるということはよく聞かれますが、私たちは意識するしないに関わらず、自然界の影響を受けて生きています。

生まれたばかりの赤ちゃんには、まだきちんとしたリズムがありません。一日の大半を眠って過ごします。少しずつ起きている時間が長くなっていきますが、夜中に何度も起き、昼は長く眠っている子もいます。赤ちゃんに昼と夜の生活リズムを作ってあげるのは、周りの大人の仕事です。子どもたちは、身体の全てが完成された状態で生まれてくるのではなく、成長をしていく中で、自分らしく生きるために自らの身体を作り上げていきます。例えば、呼吸に関していえば、小さな子どもたちの呼吸は大人と比べて速いです。心臓と肺の機能が整い、呼吸と脈拍が、もう少しゆったりした大人のものと同じになっていくのは、9歳頃だと言われます。このような身体を作り上げていく時期に、安定したリズムある生活を送ることは生命力を強め、心にも安心感を与えてくれます。小学校1年生であれば、夜は7時にはお布団に入り、7時半には眠りに就くくらいのリズムが望ましいでしょう。大人にとっては早すぎると思う時間でしょうが、学校での学びが始まったばかりの1年生には、疲れた身体と共に、学んだことや体験したことを眠りの中で休ませ、また次の日の学びにしっかりと向かうために、十分なよき睡眠をとることが大事です。大人でも寝不足が続くとちょっとしたことにイライラしたり、冷静に考えられなくなったりするだけでなく、身体の免疫力や自然治癒力も低下し、体調を崩しがちです。小さな子どもには、より大きな影響があるでしょう。

朝になれば太陽が昇り、明るくなる。日が暮れて夜になり、星々が輝く。調和が保たれた宇宙の、惑星の安定した運行のおかげで私たちの日々の生活は成り立っています。朝、太陽が昇ってこなかったり、春の次に突然、冬がやってきたりしたら、地球上は大混乱になってしまいます。私たちの身体を作っている小さな粒子、それは遙か遠くにある星を構成しているものと同じ物質です。忙しい毎日を送っていると、自分が自然界の一員であり、宇宙のリズムと共に生きているということを忘れてしまいがちです。ちょっと疲れたなぁ、と感じたときには、ほんのひととき、頭も手も休めて、太陽の輝く大空を、月を、星空を見上げてみませんか。

ライター/教員   岡田佳子