学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2020.07.08

保護者暮らし

行動してみること―長野からの移住を決めた理由―

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.84  2020.07.08

私たち家族が、長野県の北部にある大町市から、シュタイナー学園がある藤野へ移ってきたのは、2018年の4月のことでした。

長野では、夫は間伐や植林などを行う「林業」を生業としていました。私は安曇野にある共同作業所で、成人の障がいを持つ方たちと一緒に仕事をしていました。

当時、仕事において、障がいを持つ方たちと一緒に働く日々は、多くのものを得ることができる充実した毎日でした。けれど、かたや子育てとなると、私は自分自身の子育てに満足しているとは言えず、いつもそこには「後ろ髪を引かれるような思い」がありました。保育園にお迎えにいって、帰ってご飯を食べて、お風呂から上がって、眠る前の時間、一日でいろんなことがあった娘をおぶり、家の周りを何周も歩くことで「一日を取り戻す」、それが私にできるせめてもの時間でした。

そんな毎日の中で、特に小さな子どもの子育てには、お母さんと一緒に過ごす物理的な空間と時間のプロセスが必要だと思うようになり、この頃から、私は自分自身の子育てを振り返り始めました。このまま、あっという間に子どもが大きくなって、子育てが終わった時、きっと私は後悔するかも知れないと思うようになっていたからです。そんな時、定期的に行われていた研修会でご一緒した、シュタイナー学校の先生や、クラス担任を経験された方たちに、「幼児期を取り戻したいのだけれど、まだ間に合うでしょうか」と相談したところ、どの先生方も、「1、2年生のうちならまだまだ間に合いますよ」と声をそろえて仰ってくださいました。その言葉が、私に希望を与えてくれました。

夫は、娘が保育園に通っていた3年間、私が抱いていた葛藤を傍らで見ていたので、それがこれから高校を卒業するまでの12年間続くのであれば、家族で移住をして自分が納得できるまで子育てをしながら、子どもにシュタイナー教育を受けさせてあげるのが一番よいのではないか、と言ってくれました。もちろん夫も転職をしなければなりませんでしたが、数社の林業会社や森林組合に問い合わせをし、面接を受け、移住へ向けて前向きに行動してくれました。

娘にシュタイナー教育を受けさせたいということを上司に打ち明けた時、こんな言葉をかけてもらいました。「お嬢さんをシュタイナー学校へ入れたいという気持ちは死ぬほどよくわりかります。時に失望もあるかもしれない。でも向こうへいったら沢山勉強になることがあるから、行ってくるといい。子どもが5、6年生くらいになった時、一体自分は残りの人生で何をしたいのか、何ができるのかを考えるようになるだろうから、それまでは学びを続けるように」と言って、背中を押してもらいました。

子育てにおいて、沢山失敗もしますが、その時々で迷うようなことがあっても、自分自身が常に開かれていれば、助けはやってきます。たくさんの素敵なお母さんたち、先生たち、見守ってくださるまなざしに私も何度も助けられました。必要なのは、後悔しないために選択をする勇気なのだと思います。細かいことは、心が定まっていれば、かならずうまく運ばれるものです。

小さかった娘も、あっという間に3年生になりました。親としてはいつまでたっても課題が沢山あり、親も子も共に成長するための毎日ですが、だからこそ、一緒に日々を過ごすことができる幸せがあります。もちろん、私個人の人生の目標はもっと別のところにいつもありますが、それを一旦わきに置いて、心ゆくまでこの毎日を味わいたいと思います。

私たち家族をずっと支え続けてくれている夫にも、新たな人生が始まっています。趣味の木器づくりが花開き、こちらに来て良い師匠に巡り会え、技術を磨きながら良い器を作って、沢山の方の元にお渡しできるようになりました。平日は木を伐る仕事、休日は器づくりと充実した日々を過ごしています。

「行動してみること」そうすれば、子育てを通し、様々な出会いを通じ、自分が想像もしなかった人生のページを得ることができる。見えなかったものが見えるようになる。いろんな家庭のそれぞれの人生を、この共同体がいつもやさしく受け止めてくれている、そんな風に思っています。

ライター/保護者 吉澤依里