2020.08.05
夏の祝祭
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.86 2020.08.05
木々の緑も色濃くなり、その葉を広げて私たちを暑い日差しから守ってくれます。山並に響く夏鶯の声は、私たちの心を現実から自然へと誘ってくれます。そこには、アゲハ蝶が夏の強い日差しを避けるように、ヒマワリの葉の裏側で羽を休め、水辺のトンボたちがまるで水面を覗き込んでいるように飛び回っていることに気づくでしょう。
【夏の祝祭】
シュタイナー学園の夏の祝祭は、1学期の終わりごろに行われます。梅雨が明け、夏の日差しが照り付ける中、校庭の中央の焚火を囲んで、1年生から12年生までの全校生徒が集います。
トランペットやトロンボーンの演奏で会の始まりを呼びかけ、10年生が四方(東西南北)から松明を持って入場し、言葉と共に中央に集められた3年生の米作りの藁や七夕の短冊や飾りに点火します。燃え上がる炎を見つめ、自然への畏怖を心にとどめ「燃えよわれらの心に、火の力を」と、全員で歌います。炎の勢いが落ち着くと、高校生から焚火を飛び越えます。毎年、小さな子どもたちは、高校生の雄姿をあこがれをもって見つめていました。
*今年の夏の祝祭は、コロナウイルス感染予防の対策として、残念なことに初中等部は名倉校舎、高等部は吉野校舎と、それぞれに分かれて行いました。
輝き、燃え上がる火よ
はてしなく駆ける風よ
とうとうと流れる水よ
私たちを支える大地よ
燃え、駆けめぐり、流れ、支えるものたちよ
炎の坩堝でひとつに溶けて
私たちの感謝を天に届けたまえ *点火の言葉
夏の祝祭は、ゲルマン人の中にあった太陽神崇拝などを土台に、夏至にヨーロッパで行われるヨハネ祭に原型を見出すことができます。キリスト教伝来以前の習慣である太陽への崇敬が、焚火とともに捧げられます。焚火は暗闇を切り開くシンボルとされています。
夏の光と熱のあふれる季節に、私たちは本を読み、物事を深く考えるよりも、日差しに照らされた戸外へ出ていきます。そこでは、まるで自然と一体になったような感覚になり、その感覚の世界に捕らわれ埋没してしまうでしょう。だからこそ、冬至に自らの内に内的な光をともすように、対極にある夏至の時期に外で火を焚き、炎を観ながら自己を見つめ、自らの中心を見出そうとしているのかもしれません。
日本でも古来より「火」は邪気を払うものとして、熱田圓通寺の修験者の火渡り神事や奈良東大寺のお水取りを先導するいくつもの巨大なかがり火は、信心のない者でもその勇壮な炎に畏怖を抱くことでしょう。
【シュタイナー教育における祝祭とは】
私たちは、自然の変化を捉えて季節の移り変わりを知ることができます。そして、毎年繰り返される自然が表す姿に安心し、再びこの季節が来たことを喜びます。また、繰り返される季節の廻りをイメージとして持ち、次に来るであろう自然の変化を楽しみに待ちわびることもあるでしょう。
子どもたちも毎年、どこからともなく湧き出てくるオタマジャクシを楽しみにし、繰り返される自然の変化の中で、成長とともに、その自然の仕組みを体験し学んでいきます。
シュタイナー学園の四季の祝祭は、一年間の学びの時を支える四つの柱です。幼児教育の場では、四季の祝祭の準備と余韻で一年が回っていくと言っても良いくらいに、日々の保育を支える柱となるものです。
小さな子どもたちにとって、移り変わる自然の姿は、まるでたくさんの秘密が隠されているようで、日々新たな発見があり、見出す喜びや驚きがあります。その喜びや驚きが記憶として子どもたちの中に残り、想像力や好奇心を育てていきます。
子どもたちは、目に見えない力による自然の変化を体験し、そこに畏敬の念を抱くようになるのです。このことこそが、シュタイナー学園において、四季の祝祭をお祝いする理由なのです。
初等部から高等部までの全校生徒が集まり、それぞれの季節の到来をお祝いします。音楽、言葉、空間、気候、食べ物など全てが織りなされ、聴覚、嗅覚、味覚、熱感覚、平衡感覚、言語感覚などに働きかけることによって、子どもたちの体験がより深いものになるように準備されています。
ライター/教員 大嶋まり