2020.09.16
色で育む〜シュタイナー学園の水彩から絵画へ~
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.89 2020.09.16
シュタイナー教育というと、多くの方にとって虹の様な色彩が印象的ではないでしょうか。その色彩は透明感があり、見る人を包むような色彩です。この色彩の世界を子ども自身が体験するのが1年生からある「水彩」の授業です。
これは公教育での美術教科、図画工作とは体験が違っており、色そのものを体験する学びです。特に低学年では何かの形を描いたり、日常の体験を絵にするというようなことはありません。ではどんな体験なのでしょうか。
子どもたちは木々の緑、空の青さ、夕日など自然界の移りゆく生き生きとした色を心で体験しています。
シュタイナー学園では季節や自然の色彩を感じる時間が様々な学びの中にありますが、そのようなより生きた色彩を体験する時間として「水彩」があるのです。
この「水彩」は「ぬらし絵」とも言われ、ぬらした紙に描きます。水の力をかりて紙の上で色と色が響き合い、あらたな色が生まれる体験です。
色も低学年のうちは赤と青と黄色しか使いません。緑や橙や紫は色と色が出会ってできることを子どもたちは紙の上で体験します。絵の具は色のチューブではなく、先生が子どもたちの色体験にちょうど良いようにあらかじめ溶いた絵の具を使うのです。
これは乾いた紙の上で止まって動かない硬い色彩ではなく、ぬれた紙の上できらきらと輝き透明で呼吸するような柔らかい色彩なのです。
低学年の「水彩」は色そのものにたっぷりと浸り、その色の雰囲気や質を教員が語るお話とともに味わいます。まだそこに形はなく、色と色の語らいしかありません。水彩で遊ぶように色の本質と出会い、純粋な色の体験を重ねていくのです。
色にはその色のふるまいといえる本質があり、それが私たちの心に働きかけ感情を動かします。
<色を生きる>体験です。
子どもたちは色を通して感受する心の力を育んでいきます。
その後、学年が上がるにつれ「水彩」は形態を持つ色彩体験へと変化します。4年生以上になり博物学の視点が学びの中に入ってくると、水彩でも動物や植物を描きます。エポックノートでは先生の模倣から出発してクレヨンや色鉛筆で描く体験を日々重ねていますが、「水彩」ではその動物や植物の本質や雰囲気を<生きた色彩>を通して形成することを学びます。
そして色の学びは中等部を前に一つの区切りを迎えます。
今までのぬらして描く世界とは全く違う、薄い色の層(色のヴェール)を重ねていく層技法へと移ります。
一層一層乾かして描く層技法は今までの色彩体験に思考的なプロセスを作り、表れる層技法独特の輝きは、真実を探し求めていく思春期の心に語りかけるようです。
こうして、学園の子どもたちはその後、高等部において「絵画」の授業に出会います。
今までの透明感のある虹の色彩は深いところで大切にされながらも、その虹の色彩に反発も生まれます。この時期には不透明でしっかりとした重さのある色彩にも取り組むのです。
題材は、写実的な表現から印象派、表現主義的と、美術史の流れに呼応しています。
生徒たちの中には絵を描くことが好きな生徒もいれば嫌いな生徒もおり、主観的な見方が優位にもなりますが、<観る―描く>という絵との対話を繰り返していくことで客観的な視点を持つことができるようになります。
絵画の制作の過程で生徒たちの中の内的なものが生徒自身によって引き出されていきます。
色彩が彼らの心を動かし、彼らの内面を耕す手助けをするのです。
絵画(芸術)を通して彼らは自分自身に触れていきます。
初等部からの色体験で育まれた感覚と
高等部の絵画で育まれた内的な力が
自分自身で世界に働きかける力へと変容していくことを切に願っています。
ライター/教員 小林 由香