2020.10.28
秋の祝祭
学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.92 2020.10.28
秋、日本に暮らしている私たちは、闇の広がる夜にひときわ明るく輝く月を見上げます。今年の中秋の月は、天高くその美しい姿を現しました。空に輝く月から視線をおろすと、そこには花瓶に生けられたススキの穂が揺れ、満月のようなお団子がお供えしてある、そんな日本の風情や収穫を感謝する情景を目にすることも少なくなってしまいました。
季節の変化
私たちは、忙しい日常の中で空を見上げることも、私たちが宇宙と繋がっていることも忘れていますが、季節の折々の変化によって、その繋がりに気付かされることがあります。
夏の太陽の強い日差しと熱を受け、私たちはその暑さを通して感覚的に自分と世界の繋がりを感じます。冬には、太陽の日差しが弱まり、寒さや暗さの中で自分自身の内に中心を見いだし、物事を考え、また行動することができます。
感謝から愛へ
夏から冬へと移り変わる秋、夏の光と熱は実りを熟させ豊かにしてくれます。私たちは、大地の豊かな恵みを感謝して受け取り、そして、この実りを与えてくれた太陽の光や熱、風や命を育てる雨、動物や昆虫の、そして人々の働きに感謝します。この「感謝」は、目に見えない在り方で大地に、そして自然に働きかけます。私たち大人が感謝の気持ちを持って、四季の移り変わりを過ごすことは、模倣を通して自らを成長させる幼い子どもたちにとって、その成長を支え、自然の目に見えない力への「畏敬の念」を育てていきます。また相手を思う心からの感謝の気持ちは、1年生から8年生までの子どもたちにとっては「愛する力」に、9年生以上の若者たちにとっては、その愛する力が「責任を果たすための行いへの愛」へと発展していくのです。
オロチ劇
今年もシュタイナー学園の3年生は、春から田んぼに行ってお米作りをしました。秋、そのお米を収穫し、お米作りを締めくくるように、秋の祝祭で『オロチ劇』を発表します。今年のオロチ劇は、たくさんの歌と共に3年生の子どもたち自身が最も楽しみ、成長の時となった発表だったようです。3年生は、お米作りと共に『古事記』のお話を通して、世界の始まりと出会います。
『オロチ劇』では、高天原を追われた須戔嗚尊(すさのおのみこと)が地上に降り立ち、八つの頭を持つ八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を酒で酔わせ、戦いに挑み奇稲田姫(くしなだひめ)を救い出し、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)を得るという物語が演じられます。
シュタイナー教育の中では、子どもたちの学びの中で多くの物語が語られます。子どもたちは、物語の登場人物と共に冒険し、ドキドキしたり、ほっとしたり、自分の心を揺らします。物語の中に登場する人物や物事を、子どもたちは一つの雰囲気を持ったイメージ(表象)として捉えています。物語を説明されるのではなく、子どもたちは物語の中にあるメッセージを感じ取るのです。
秋の祝祭で行われる『オロチ劇』には、―私たちが人生において困難に出会い、それを自分の知恵と勇気をもって乗り越え、自我の象徴としての新たな剣を得ることで成長していく―という子どもたち、そして大人たちへの普遍的なメッセージがあります。
3年生という時期
3年生は、この秋の移行の時のように、成長の一つの分岐点でもあります。幼児期から3年生に至るころまで、子どもたちにとって世界は美しく、善きもので溢れ、お父さんやお母さん、先生の言っていることに間違いはないと思っていることでしょう。しかし、3年生頃になると「もしかすると、お母さんは私の本当のお母さんじゃないのかもしれない」「あれ?先生、前に言ったことと違うこと言ってる」などと感じています。ご両親も「あんなにいい子だったのに、最近言うことをきかなくなった」と感じることもあるのではないでしょうか。
これは自我の目覚めであり、これまで見えなかったものが見え、感じられるようになる成長過程の一つの段階なのです。子どもたちの内側では、これまで立っていた大地が、まるで地震が起きたようにグラグラと揺れて、どうやって真っ直ぐに立ったら良いのかわからず、大きな不安の中にいるのです。
シュタイナー学園のカリキュラムでは、3年生でたくさんの仕事について学びます。田んぼを耕してお米を作り、自分達も職人さんのように木を伐り、粘土を捏ね、鍛冶屋さんの仕事と出会い、自分たちの手で美しいものを作り出す(世界を変える)体験を通して、新たに自分の中心を見いだすことによって、子どもたちは自らの足でしっかりと大地に立つことができるのです。
それは、これまで外から与えられた秩序を自分の中から見いだしていく過程なのです。
光と闇の時間が同じになる秋は、光溢れる夏から闇の長い冬へと移り変わっていく転換点となります。自然や3年生の成長が現わすように、この秋の時に私たちも自分の内面に目を向け、知恵と勇気をもって自らを見いだすことができるのではないでしょうか。
ライター/教員 大嶋まり