学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2021.02.03

教育

シュタイナー学校初中等部(1-8年)の理科の授業 第3回 中学年の理科 〜自然への「愛」を持つ 〜

学校法人シュタイナー学園 ニュースレター
VOL.99 2021.2.3

第1回はこちらから読むことができます

第2回はこちらから読むことができます

第3回は、中学年3〜5年生の理科の学びについての話です。

「担任」という大人を通して、自然とのあたたかいつながりの中で過ごしたあと、子どもたちは3年生、9歳の時期を迎えます。この時期の子どもの心の中は揺らいでいます。周囲のことが少しずつ認識できるようになり、自分が世界の中でどんな存在なのか、ぼんやりと意識し始めます。ですから、自分の存在意義がゆらいで、不安になったり興奮しすぎたりもします。子どもによっては「私は本当に、お父さんとお母さんの子どもなのだろうか」と考える子もいます。シュタイナー教育ではこの時期におこる自我の芽生えを「9歳の危機」と呼んでいます。

シュタイナー教育のカリキュラムはこの時期の子どもを支える役割を持っています。「世界のはじまり」を表現した「神話」の世界を体験したり(古事記や創世記:国語・劇)、自分の身体を使って世界を測ったりする時間(長さ・重さ・かさ:算数)は、この時期の子どもたちの癒しの時間です。それらの活動を、子どもたちは大人が驚くほど集中して取り組みます。心の底から喜んでいるのが分かります。

それでは、理科という教科が、この時期の子どもたちを、どのように癒すのかを見ていきましょう。

(1)「この世界で生きていく」体験:3年生

3年生では、まだ他の教科と「理科」ははっきりとは分離されていませんが、理科的な要素を扱う活動は3つあります。

①    米作り:植物を育て食べる

学校の近くの農家の方の協力を得て、四季の変化を感じながら、米作りに携わります。種を蒔くところから始まり、1年を通して植物が生長していく様子に意識を向けることは子どもたちの大きな楽しみです。稲は、田んぼの土、小川からの水、そよぐ夏の風、太陽の温かさの中で育っていきます。田んぼにどんな生き物がいるかも子どもたちは興味を持って観察しています。大地を耕し、種を蒔き、収穫・貯蔵し、お米を食べるという四季と共にあるプロセスを経て、子どもたちはこの世界で「生きている」というイメージを豊かに持つことができるようになります。

②    職人の世界:地水火風の世界

職人は、自然の素材を、「土」、「水」、「火」、「風」の力を利用し、人間の生活に役立つ道具を創り出す人たちです。鍛冶屋、紙漉き、炭焼き、ほうき職人、家具職人、大工、ガラス職人、左官屋の技に子どもたちは魅了されます。職人の技の中にある「地水火風」の力のバランスはかなり違いがあります。子どもたちは「地水火風」の観点で職人の技を「驚き」と共に「憧れ」を持って真剣に観察します。自分が生きていくために必要な「技」に意識が向き始めます。理科的に見ると、その体験は高学年の「物理」や「化学」の世界につながっていくことになります。


③     家作り:自然を使って住居を作る

家作りは職人たちの技の集まりによって成立します。今度は子どもたち自身が職人となって、実際に自分たちの家を作っていくのです。自分たちがどんな家を作りたいか計画し、学校のまわりで使える植物や石にどんなものがあるかを調べます。その体験は「地理・地学」につながっていきます。

この世界で生きていく準備ができはじめました。いよいよ、「博物学」として、動物や植物、鉱物を本格的に学び始めていくことになります。


(2)人間と動物:4、5年生 〜自分の身体と比較して、動物を理解する

シュタイナー学校の中学年の理科の授業の最大の特徴は、「自然と自分を比較すること」といえるでしょう。4、5年生が学ぶ「動物学」の一例を見ていくことにしましょう。

「動物学」の最初に、人間の身体について学びます。人間の身体を、その役割から三つの部分、頭、胴(胸と腹)、手足に分けることから始めます。人間の頭は丸く、形の上では「太陽」のようです。胴体は呼吸と血液循環のため、膨らんだりしぼんだりするので「月」のようです。手足の真っ直ぐな形は、遠い「星」から届く光のよう、というように「性格づけ」していきます。この時期の子どもに、身体における頭の大きさの比率や、目や脳の仕組みなどを説明してしまうと、子どもたちの自由なイメージを奪ってしまいます。図鑑に出ているような「定義づけ」は、できるだけ避けるようにします。

最初に学ぶのは「イカ」です。教師はイカがどのように暮らしているか、図鑑的な知識を伝える(定義づけする)のではなく、物語のように語ります(性格づけ)。子どもたちと一緒に実際にイカになって動いてみたりもします。

イカが敵を見たときの身体の色の変化や、獲物を捕らえて食べる様子を語ったあと、子どもにこう問うのです。「イカは人間の身体と比べたら、どの部分に似ている?」。子どもたちは「顔」と答えます。顔色の変化や、周囲の様子を感知する様子が、感覚器が集中している顔の役割とすぐに結びつきます。イカの脚のようなものは、人間の唇と同じ働き、という発見をすると、子どもたちはとても驚きます。イカが群れになって泳いでいるところは、海の中で、たくさんの「顔」が泳いでいると想像してごらんと言うと、子どもたちは不思議な気持ちになるようです。遠い存在だった「イカ」が身近に感じられるようになります。他にもいくつかの動物を取り上げて、人間の身体と結びつけていくのが動物学の学びです。

(3)植物学:5年生 〜自分の成長と比較して、植物を理解する

植物学では、人間の心の成長と比較して植物を理解していきます。字数の関係で今回はしっかりと紹介することはできませんが、「キノコと大地の関係」は、「幼児と母の関係」に対応していることは直感的に理解していただけると思います。この絵は、その対応関係を表現したものです。

図:「植物の分類と人間の心の発達の関係性」(2017. 小柳)

5年生は少しずつ知的な目覚めが始まってきており、観察力が上がってきています。植物の生えかたを周囲の環境と共に観察し、特徴を記録していくことができます。「歴史」を学ぶのにふさわしい、「過去・現在・未来に対する感覚」が育ってきているのもこの年齢の子どもの特徴です。観察力が上がっているこの時期の子どもたちとは、「キノコ(幼児)と大地(母)」のように、植物の在り方が、人間の心の成長の中でどの時期にあたっているか、教師と話し合うこともできます。この観点を持って森を歩くと、いろんな年齢の人間が助け合って生きているイメージと重なって見えるようになるようです。この年齢で育まれた植物に対する温かな感覚は、高等部の「環境学」の授業に温かな雰囲気をもたらします。

(4)まとめ

中学年の子どもたちは動物や植物を、人間である「自分」と結びつけていくことで理解していきます。定義づけの多い図鑑や説明動画などで見られるような、客観的な観点は多少なりとも「距離のある冷えた関係性」を自然との間に築いていくことになりますが、シュタイナー教育の方法での学びでは、「自分と結びついた温かい関係性」を自然との間に築いていくことになるのです。以上の観点から、シュタイナー教育においては、自然を温かく理解することは、自分自身を温かく理解することと同じ意味である、ということを理解していただけるのではないかと思います。シュタイナー教育の中学年の理科のカリキュラムは、高等部で花開く「愛」の世界(性愛→人類愛)の土台となっていきます。

ライター/教員 小柳平太