学校法人 シュタイナー学園

活動報告

2022.09.01

教育

学園通信 2022年9月発行号 

学園通信(2022年9月発行号)ができました。 (PDF版はこちら p.1&8  p.2-3  p.4-5  p.6-7)

<主な内容>
・特集:幼児期の過ごし方
・今日から実践!お家でできる シュタイナー教育Q&A
・One Day~ある日~ シュタイナー保育園おひさま子どもの家
・FUJINO STEINER COLUMN 21期卒業生 塚本亜里菜さん
・シュタイナー学園の未来へ シュタイナー学園保護者・理事長 高橋靖典
・学園が存続するために ご寄付のお願い


【特集】幼児期の過ごし方 

幼児期に大切にしたい生活リズム。
家庭では何に気をつけて、どんなふうに過ごせばよいのか。
8年生を2度送り出し、3巡目の2年生を担任する高𣘺先生と、保育園の施設長の石橋先生に、幼児期の過ごし方についてのお話を伺いました。

インタビュアー/黒瀧るみ子 ライター/越野美樹

黒瀧 シュタイナー 教育では、幼児期こそ大切、と 言われていますが、どのように過ごしたら良いのか、ヒントを伺いたいと思います。 シュタイナー保育園で子どもたちはどん な生活をしていますか?

石橋 登園後に身支度をすませると自由遊びを始めます。大人の介入なしに、子どもたち自らが発する衝動を大切にしてファンタジーを働かせて遊んでいます。大人は子どもたちが遊びに没頭できるよう、子どものそばで見守ります。年齢に応じてトラブルも自分たちで解決できるように見守り、介入は最小限にしています。たっぷり遊んだ後は、朝の集まりをして、ライゲン(季節の情景や人間の営みをリズムのあるうたや言葉とともに動く)をします。午前おやつのあとは外遊びで、ここでも子どもたちはファンタジーを働かせつつ砂場遊びをしたり、木登りをしたりたっぷりと体を動かします。雨が降ったらレインコートを着て散歩に出ます。また、週に1回は山道散歩へ。季節による移り変わりも感じながら、急斜面をのぼったり、自然の宝物を見つけたり。平坦ではないでこぼこ道を歩くことは子どもの成長発達を促し、「自分で歩けるという達成感、満足感」を持たせます。外遊びの後は給食、お昼寝。体と心を休めた後は順々に起きて静かな遊びを始め、午後おやつ。夕方まで過ごす子どもたちは、手仕事や工作、自由遊びをしてお迎えを待ちます。

黒瀧 毎日のリズムが大切ですね。家庭でのリズムが崩れると、子どもはどうなりますか?

石橋 遊び込む力がなくなったり、すぐに遊びに入っていけなくなったりとういう影響を感じます。友だちとの関係がこじれたり、活動しているなかで気持ちがそれたりすることにつながりやすいですね。

黒瀧 私が子どものころは8時に寝るものという、社会全体に緩やかなルールがありました。今は夜更かしに抵抗感がなく、子どもを大人の生活に巻き込んでしまうことが多いように思います。

石橋 最近は親がハッピーであることが一番大切という考えを持つ人もいますね。確かに大人が幸せじゃないと子どもは健やか に過ごせませんが、大人の生活に子どもを巻き込むのではなく、子どものリズムを守ることを優先してあげたほうが、実は大人が楽になってハッピーになれるのですよね。

黒瀧 子どもを寝かせてから大人の時間を持つほうが、実は楽ですよね。私は、子どもの前で大 人の話をしないとか、子どもに判断させないなど、この教育に 出会って子どもと大人の生活を分けることを知ったことが、すごく助けになりました。

石橋 子どもは遊びも生活もゆったりしたリズムが良く、遊びは危険がない限りすべて子どもの自由ですが、生活の場面では大人の多すぎない適切な指示が必要です。子どものリズムを待ってあげる必要はありますが、生活の中での「やっていいこと・ いけないこと」は子どもに任せない、選ばせない。子どもが成長して自分で判断できる時期ま では大人のガイドが必要です。

黒瀧 具体的に、大人はどのように過ごすのが良いでしょう?

石橋 子どもは大人の日々の姿を見て模倣し、やりたいと思って、できるようになります。大人は心を込め、嘘のない姿で生活すること。料理や掃除なども過程の見える、便利すぎない生活にしたいものです。もちろん心の負担とならないよう、できる範囲で努力していくことが大切です。

黒瀧 大人も手を使うことが少なくなっている時代なので、大人が手を動かす姿を見せるのは大切ですよね。良くても悪くても子どもは大人を見本にするので、それを忘れないようにしたいですね。

高𣘺 今、皆さん忙し いので、早口になったり、子ど もの行動をせかしたりしがちですが、子どもの時間は本当にゆっくりなんですよね。低学年は教室に時計がないですが、家でも体験に浸れるような空間がつくれたら良いと思います。「子どもにふさわしくなるまで待つ」「なぜふさわしくないのか考えてみる」ことが大事です。

黒瀧 幼児期にメディアから遠ざけていた子どもと、そうでなかった子どもに違いはありますか?

高𣘺 メディアに触れている子は、パパッと即座に反応するけど、 自分で言って終わり。ほかの子のお話もなかなかキャッチせず、話し方も速い傾向があると感じます。普段はメディアに触れていない子でも、長期休みに祖父母の家でテレビを観ると、休み明けは吸収力が弱まる、落ち着かないなどの現象がてきめんに出ます。

黒瀧 刺激が残っていて、大事なものが入っていかない?

高𣘺 テレビやタブレットなどの動画・ゲームは刺激的で、いろいろな影響があり、それに比べ て何も見せずにお話を語る素話は人の声で語りかけ、素朴です。 テレビやタブレット動画などを知ると、授業で語られる素話は退屈に感じる子が多いと思いま す。大人は情報を選択できます が、子どもはメディアの世界に全身全霊で入っていく。メディアに触れていると、親御さんとの生き生きとした関わりも難し くなると思いますが、普段から家庭でも温かい話のやりとりの 中で過ごしていると、周りへの信頼感が違ってくると思います。

黒瀧 メディアは楽に入ってきて、自分から聴きに行く必要はないですよね。素話は自分がその中に入っていき、自分でイメージをつくりださなくてはいけな い。メディアに慣れていると、「聴く力」が育たなくなるのですか?

高𣘺 テレビは話し方が速くて、 声色もつくった感じで高いので、 深い呼吸をすることが難しくなります。昔は、おじいちゃんおばあちゃんのゆったりとした語り掛けがあり、子どもにすごく良い影響があったと思います。

黒瀧 メディアに触れている子どもが「聴く力」を取り戻すには、 どうしたら良いでしょうか?

高𣘺 子どもがたどたどしい言い方で話そうとすることを、大人が受け止めて聴くことが大切です。そうすると他の子の話も聴くようになります。興味をもっ て耳を傾けて聴いていないと、子どもはそれを肌で感じます。「この子はどんなふうに育つのか」と楽しみにしながら聴いてあげると、子どもは安定します。賢い子に育ってほしいなどの欲が出てしまうと、子どもは自分が受け入れられていないと思ってしまう。ありのままの自分が受け入れられていると感じるのは、言葉だけじゃなくて、視線や顔色などその場の空気感から察するからです。小さい子は特に、1、2年生くらいまでは感覚が開きっぱなしですから。

黒瀧 子どもは小さければ小さいほど大人の真似をしたがりますが、大人がスマートフォンで何か一生懸命やっているのを見たら、やりたくなりますよね。スマートフォンを子どもの目に触 れさせないようにするにはどうしたら良いでしょうか?

高𣘺 散歩に出かけていろいろなものを見るなど、違う視点にシフトしていくと、スマートフォンを見る時間も自然と減るのではないでしょうか。キャンプに出掛けるなど、自然と触れ合う体験を楽しみ、メディアは大人だけの世界にしてもらえると良いと思います。電車で出掛ければみんなスマートフォンを見ていますし、難しいですが、工夫次第でいろいろな試みができると思います。

石橋 少なくとも家庭の中では、スマートフォンは「大人のもの」だという境界線をしっかり引きたいですね。「まだ、これは子どものものではない」ということを、大人が認識する。小さい子は、虫一匹、お花ひとつあればずっと見ていられるので、自然に触れ合う体験をたくさんさせてあげてほしいです。

黒瀧 赤ちゃんがハイハイしはじめると、危険なものは手の届かない高い場所に置く。それと同じことで、スマートフォンも少しの間、子どもから離しておくということですね。また、今までテレビを観せていたご家庭は、どうしたら良いでしょう?

高𣘺 家でのお手伝いでも良いですし、メディア以外の楽しいと思えるような場を提供する。親も楽しんでやることで、子どもも楽しくなると思います。

黒瀧 テレビに布をかけて隠すと子どもは存在すら忘れてしまうと言います。試しに週に1日はテレビを観ない日をつくって、その違いを感じてみては? いろいろお試しでやってみて、フェードアウトするのもありなのかもしれませんね。メディアもそうですが、シュタイナー教育は、あれもこれもダメな教育という伝わり方をしているところがありますよね?

石橋 ダメなのではなくて、「今は待ってください」というだけなんです。成長に合わせて、ふさわしいときに、ふさわしいものを与える。なんでも小さいうちから与えてしまうのではなく、必要になるまで「親も子も楽しみに待つ」ということが基本です。楽しみに待てなくて苦しんでしまうと、ダメと言われていると思ってしまう。なぜ待つ必要があるのかを自分で考え、納得して行動できることが大切ですね。

黒瀧 それを、子どもも察知しますよね?

石橋 腑に落ちないけれど、やってみるとわかることもあります。「なんでそんなにいいのか?」「でも、悪くない」と思いながらやると、「やっぱり良かった」と思うことがたくさんありました。後になってから理由がわかることもあります。

黒瀧 「ねばならない」になると自分が苦しくなり、子どもにとってもあまり良くないですよね。試しにやってみるくらいの気持ちが大切ですね。

(プロフィール)
髙𣘺 幸枝(Yukie Takahashi) 〈写真・中央〉栃木県出身。鈴木一博氏より言語造形を学ぶ。旧日本アントロポゾフィー協会教員養成講座1期生。2004年よりシュタイナーシューレ、シュタイナー学園に勤務、現在2年生担任。「お話とライアー」でお話を担当。

石橋 理香子(Rikako Ishibashi) 〈写真・右〉看護師として小児の看護に携わった後、シュタイナー幼稚園助手、親子クラス主催。シュタイナー幼児教育協会教員養成講座1期修了。2018年よりシュタイナー保育園とねりこ子どもの家施設長。

黒瀧 るみ子(Rumiko Kurotaki) 〈写真・左〉アントロポゾフィー絵画・造形療法士の吉澤明子氏に師事。シュタイナー美術教員養成講座・シュタイナー教員養成講座修了。水彩教室『いろのひびき』主宰。今年度スタートした週末クラス「もりのね」1年生担任。



今日から実践! お家でできるシュタイナー教育Q&A

Q. 幼児期を過ぎてしまったのですが…
A.
幼児期に限らず、生活リズムができると、心と体が健康になり、子どもも大人も楽になります。大人としてのあるべき姿で生活をして、子どもがそれを模倣するのが理想です。頑張りすきる大人を見ると、子どもも「そうでないといけない」と思うので、力を抜いて無理しすぎないことも大切です。大人が素直に生きているとか、不十分でも学んで変われる力があれば良いと思います。

Q.どこから始めていいのかわかりません!
A.まずは寝る時間を安定させましょう。同じ時間に、早く寝て、早く起きるだけでもずいぶん違います。それに、ご飯の時間が決まれば、あとはそれほど難しくありません。睡眠と食事以外は意識しなくても、自然とリズムある生活になり、子どもが毎日を安心した中で過ごせるようになります。

Q.シュタイナー幼稚園に活かせていないのですが…
A.
幼児期にたくさんの刺激があったとしても、これからの成長過程で学んでいくことを、親子共に待てるか、ということが大切です。全部の夢をかなえる教育ではないですが、成長段階に合った教育に、その子自身が合えば良いと思います。学校と家庭との二人三脚が必要で、親御さんが担うことも大きいです。

Q.年齢の違う兄弟間の対応が難しいのですが…
A.
小さい子優先が基本です。下の子にふさわしくなるまで、上の子にはその子の成長に合ったとりくみを、空間や時間を分けて確保してあげる。学びなど、上の子の真似をすることもありますが、憧れで模倣しているだけで、実際に結びついているわけではないので、全く心配ありません。上の子が下の子に合わせて守られた生活をしていると、上の子の反発が出てくる時期もありますが、一生の基本となる幼児期(低学年の時期)にふさわしい環境を与えることはとても大切です。上の子には親とだけ過ごすなどの特別な時間を持ち、わかっているという気持ちを送ってあげつつ、下の子のリズムを守る工夫が必要です。


One Day ある日 ~シュタイナー保育園おひさま子どもの家~ 

J R中央線高尾駅より徒歩約20分、武蔵野御陵のほど近くににある企業主導型保育事業「シュタイナー保育園おひさま子どもの家」幼児クラス(3〜5歳児)の、ある日の様子をご紹介します。
※ご紹介したのは一例ですので、保育内容は変わることもあります。

7:30〜 登園 布や紐、流木や木片、貝殻やサンゴなど、遊び方が限定されない、自然のおもちゃを使って思い思いに遊びます。水曜日には、水彩を行います。

9:40〜 ライゲン 曜日によってライゲン(ファンタジーにあふれたリズム遊び)、ひびきの時(音楽療法)、オイリュトミー(音と言葉の身体芸術)などを行い、午前おやつを食べます。

10:10〜 戸外活動 庭遊びや散歩に出掛けます。お散歩は、武蔵野御陵を散策したり、陵南公園で遊んだり、南浅川沿いを歩いたりします。

12:00〜 給食 調理者手作りの、健康で安心な素材の命をいただきます。メニューは曜日によって決まっています。

12:45〜 メルヘンの時間 日本の昔話やグリム童話等のお話を聴いたり、人形劇を観たりします。

13:00〜14:30 お昼寝

15:00〜  おやつ

15:15 帰りの会 帰りの会が終わった後は室内遊び。16:15〜は幼児、乳児合同で室内遊びをし、順次降園します。

18:30 閉所



FUJINO STEINER COLUMN 
21期卒業生 塚本亜里菜さん



シュタイナー学園の未来へ 
  シュタイナー学園保護者・理事長 高橋靖典

1919年の自由ヴァルドルフ学校の誕生から100年を超え、当校でも1987年の立ち上げから36年目に入りました。多くのかたがたが関わり、支えてくださったことで、現在の教育環境が整ってきています。今後、校舎を修繕していくのか、建て直しをするのか等も大きな取り組みとなりそうです。近年入学された皆さんや、これから入学される皆さんに、是非ご活躍いただければと思っております。また、社会の状況を鑑みると、改めてシュタイナーの唱えた社会の三分節化(精神の自由、法の下の平等、経済の友愛)に取り組んでいくことが重要ではないかと感じています。社会に変化を起こすためには、自分のいる場所で自分にできることから始めること。個人的な夢としては、新しい形の農場や新しい仕事のスタイルなどの、地域の活性につながる取り組みに関わっていけたらと思っています。



〜学園が存続するために〜 ご寄付のお願い

新しい時代に向けて変革期を迎える今こそ、 「新たな価値を生み出す力」を育む教育が必要です。 この教育を多くの子どもたちに届けるため、私たちを応援してください!
学園の公式HPに寄付サイトを新設しました。
https://www.steiner.ed.jp/donation/
インターネットからワンクリックでご寄付いただけます。
一口1000円から承ります。
皆さんのお気持ちが集まってこそ、この学園は継続することができます。
ぜひ、お気持ちをお寄せください!