2020.11.06
学園通信 2020年9月発行号
学園通信(2020年9月発行号)ができました。 (PDF版はこちら p.1&8 p.2-3 p.4-5 p.6-7)
<主な内容>
・特集:あらゆる学びの統合としての「演劇」 対談 小柳平太×白田拓子
・STAY HOME 新型コロナウイルス感染症拡大による自粛期間中の取り組み
・FUJINO STEINER COLUMN 18期卒業生 横山海夢さん
【特集】あらゆる学びの統合としての「演劇」 対談 小柳平太×白田拓子
白田 シュタイナー学園では8年生と12年生の時にクラス演劇を上演します。今日は昨年度末8年劇を終えられたばかりの小柳先生に、劇について伺います。
いつ頃から、劇の構想を練っていらっしゃいましたか?
小柳 具体的には子どもたちが6年生の時に、どんな劇を行おうかなと考えはじめました。実は4年生を半分終えたくらいから、一体何のためにこの人たちがこのクラスに集まってきたのかということを考え始めていて、それに沿うようなかたちで劇ができたらなぁと思っていました。
白田 8年劇をやる中で、大変だったことはありますか?
小柳 私たちのクラスは、1年生から4年生までは劇を行っていたのですが、5・6年生の時、クラスは劇をする状態にはありませんでした。今振り返ると、大変な時だからこそ、劇を通して、クラスメートを別の角度から見たり、劇の中で自分とは違う役に入ることで自分を見つめなおしたり、みんなで劇を作り上げていく中で、クラスにある課題をクリアしていくということが必要だったなと思います。子どもたちの自主性が目覚め育っていく5・6年生の時期に、劇をやっていないということは、劇を作る上で大きなことだったんだな、というのが8年劇の準備中に感じていたことでした。
白田 一つ一つの劇が思いがけず大きな力となるのですね。
小柳 最初、子どもたちは自分の殻を破り、自分を脇において、役になりきるということが難しく、どうしていいか分からないという「ゆらぎ」がありましたね。そんな中で、卒業生に来てもらって、劇の準備のためのアドヴァイスをもらったり、演技指導をしてもらったりする中で、「自分の殻を破って、恥ずかしがらずに演技しないと絶対に後悔する」ということを、卒業生が8年生に言い続けてくれました。こういうことって、この学校の強みでもあると思うんです。毎年、8年生と12年生は大きな劇を行います。子どもたちは劇を終えた後のキラキラした姿の8年生や12年生を見ながら成長していきます。それらをやり遂げてきた先輩たちが、自分たちに向けて言ってくれた「後悔しないために自分の殻を破って演技する」という言葉を、重みを持って8年生は受け取ることができるんですよね。学園で培われて継続している「劇」というカリキュラムや、そこにこめてきた教員や子どもたちの思い、それを支えていた保護者の思いが、先輩たちの言葉にのって、8年生に伝わっていく様子を側で見られたことは、私にとって、とても大きな経験でした。
白田 シュタイナー学校で劇を行う意味を教えて頂けますか。
小柳 私たちは、シュタイナー教育における人間の見方と子どもの成長段階に合わせて、カリキュラムを組んで授業をしていますが、そこに劇が入っているのはとても大きなことだと思っています。学んできたことを劇の中で全て使うことができるんですよね。音楽、オイリュトミー(※注入レル)、絵を描くことや、物をつくること、言葉。大道具係の生徒は、小屋や屋根を作るために、三平方の定理を使ったりしています。学んだことを総動員させながら、クラスのあちこちで話し合いが行われます。人間関係の難しさや楽しさも身をもって学ぶこともできます。「劇」はシュタイナー学園のカリキュラムの全てを詰めこんだ、万能薬のような科目です。
白田 学園では「劇」を本当に大切にしたいと思っていますよね。
小柳 内的な成長や人間関係の学びにとっても大切なのが「劇」という科目です。自分の殻を破って演技した生徒が現れ始めると、その姿に刺激を受けて、他の生徒も殻を破って演技することができるようになっていきます。劇が終わった後に生徒たちを見ていると、最初に殻を破った生徒に対して、周りの生徒たちは尊敬の念と感謝の念を持っているように見えました。そのような体験を重ねていくことで、子どもの心が大きく変わっていく姿を側で見ることができました。卒業生や保護者が「学園の子は根拠のない自信を持っている」とよく言いますが、根拠がないわけはないんです。劇などの体験を通して、「自分を出す」ことを積み重ねてきた「根拠ある自信」があるように私には見えるんです。
白田 ここでの学びの集大成が劇で、その先に、自分を見つめてみんなと出会う、生きていくために大事なものがぎゅっと詰まっている、そんな感じがしますね。
小柳 それを自然にできる環境がここにはあるなぁと思います。小さな頃からずっと8年劇や12年劇を見続けてきて、自分たちもあんな風になっていくと思って成長していく子どもたちの凄さを感じます。
白田 これからシュタイナー学校に入学・転入させたいと思っている保護者の方に向けて何かメッセージはありますか?
小柳 「この学校に子どもを通わせることで、私たち家族の中に一体どんなことが起きるのか、それがどんな意味を持つことになるのだろうか」と、入学後もそのことを思い続けて欲しいなと思っています。そういうみなさんの思いが、クラスで起こるいろいろなことを乗り越えていくための土台になるのではないかと感じています。親が変わることで、子どもが変わる。子どもが変わる姿を見て、親も変わるという、人間が成長していくための環境がこの学園にはあると思うんですね。そのことを意識して私たち教員は仕事をしています。入学や転入を考えている方は、家族でここに来ることの意味を考えつつ、学園に縁を感じて下さったら、ぜひここに足を運んでいただきたいと思います。そうやってここに来られるみなさんの言葉を聞くことが、私たちの大きな喜びです。
白田 「シュタイナー学校に入れば大丈夫」と思われがちですが、入ってからの方が、子どもにも親自身にも様々なことが起きる。起きることに柔軟に対応していったり、変化を受け入れていくことが大切になってくる。子どもも変わるし大人も変わらざるを得ないことが色々とある中で、ポジティブに変わっていこうという気持ちがもてると、この学校に来た意味を見出せるのかもしれませんね。
小柳 そうですね。うまくいかないときにこそ、「変わる」ということがテーマになってくるのではないかと思います。親御さん自身が12年かけて変化していくことは、8年劇の中で子どもたちが変化していくことと、同じなのだと私は感じています。だから、劇で起こったことや、劇の背景を今回ちょっとだけ話しましたが、親御さんたちがやっていることと実は同じなんだよって、そういうふうにこの学校をとらえて、これから関わっていって下さればいいなと思います。
STAY HOME 新型コロナウイルス感染症拡大による自粛期間中の取り組み
低年齢の間はメディアや電子機器の使用は推奨されていないシュタイナー教育。オンライン授業は行わず、郵送で分厚い封筒に入った課題が数回、先生から届きました。子どもたちへの手紙も入っているほか、週に1~2回電話で話す時間もあり、離れていても先生との繋がりを親子共に感じることができました。
課題を行う時間や内容が細かく書かれ、子どもが取り組みやすくなっていました。朝の詩を唱え、お手玉を使いながら身体を動かし、歌を歌ったり笛を吹いたりしてから学びが始まるのも学園の授業と同じ流れ。算数・漢字・英語・中国語・フォルメン・日記など机に座り取り組む課題の他に「顔くらいの石を探す」「好きな生き物の観察をする」など、身体を動かし、まわりの世界に目と心を向ける課題もたくさんありました。
学園で身のまわりのものを自分で作る経験をたくさんしている子どもたち。STAY HOMEの間に家族でも「ものづくり」をたくさんしました。布マスク作りから始まり、近所の人と共同で飼い始めた4羽のニワトリの小屋作り、自宅のウッドデッキ作りまで。木を切り、釘を打ち、ペンキを塗り、2ヶ月かかってウッドデッキは完成。午前中は学校の課題に取り組み、午後はニワトリの世話や「ものづくり」を家族でする。そんな良い時間を家族で過ごすことができました。
3回ほどに分けて、郵送でどっさり課題が届きました。国語、数学、英語、歴史、書道、体育、手のしごと、工芸…ほとんど全部の授業の課題が出ていました。学園で小さな頃から「学びたい」「学ぶことが楽しい」という意思を育ててもらっているからか、学びに対してとても前向きで自分で毎日のスケジュールを立て、学びに向かっていました。
課題に取り組むことで、子どもは先生方の存在を感じているようでした。長い時間をかけ築かれた先生方やクラスメイトとの関係は心強く、会えなくても繋がりを感じられました。担任の先生だけでなく、英語の先生も電話をくれ、発音チェックをしてくれたりもしていました。
初等部(3年生)で行った米作りで収穫したお米を継いで、毎年庭でお米を育てています。大きな容器の中で育て、収穫はお椀半分もないのですが、稲が育っていく様子がとにかくきれいなのです。父親も在宅勤務になっていたので、課題を終えた後は親子3人庭仕事をよくしました。お米作りも今年はより楽しめました。
高等部は「情報」という授業が始まり、パソコンに触れる場面もあったことも踏まえ、オンライン授業が導入されました。メディアやパソコンがあまり身近ではない環境で育ってきた子どもたちですが、あっという間に使いこなし授業はスムーズでした。新しいものごとに興味や意欲を持てる、そんな学びの素地があったことも大きいと思います。オンライン授業では国語、英語、社会、美術史、地理、情報、コーラスなどが行われました。
高等部では多くの課題提出があり、自宅学習でも多くの時間を費やしていました。問題を解き提出する「答え」のある課題だけではなく、「考える過程そのもの」を問われる課題も多く出されていました。レポートを作る際、授業を通して見聞きしたことや、先生から送られた資料を調べながら、自分の考えを組み立てレポートにしていきます。オンラインで授業はしても、課題に取り組む時に何でもgoogleで調べるようなことはしません。そんな課題との向き合い方を通し「答え」のない問いに対して自分だけの「答え」を見つけていく、そんな力が育っているように感じます。
課題ではなかったのですが、身体を動かすことをしてくださいという話がオンラインのホームルームで出たので自主的に毎日のように散歩をして体力維持を心がけていました。いくら散歩しても人に会わずにすむような自然豊かな環境の中で、この期間を過ごせたことは、大人も子どももとてもありがたいことでした。
FUJINO STEINER COLUMN 18期卒業生 横山海夢さん(リンク)